
リモートワークの普及は、経営者にオフィスの在り方を問うことになった。ただし、出社するワーカーが減った分単純にオフィス空間を縮小すればいい、という考えでは企業の成長も優秀な人材(Human Resources)の確保もおぼつかない。オフィスに限定せず、ワーカーが働く場所を“ワークプレイス”と位置づけ、知識の創造の場としてデザインする。それが今、経営者に求められている重要な課題だ。
ナレッジワーカーを活用する組織に変える
コロナ禍によってワーカーの働き方やワークスペースであるオフィスに変革が起こっている。その変革の代表例としてよく取り上げられるのが、リモートワークの普及によって、ワーカーが都市から郊外へ移り、そこを新しいワークプレイスとした活動を始めたためにオフィスが余り、効率的な活用が課題になっているという事例。

紺野 登
大学院経営情報学研究科 教授
しかし、多摩大学大学院教授の紺野登氏は、「そのような環境変化認識は表層的な捉え方ではないか」と指摘する(以下、全てのコメントは紺野氏)。
「リーマンショック以降、世界の大都市では休日や夜間のオフィス空間が余剰であるといわれていて、オフィス・マネジメントに関する議論が続けられていました。それをコロナ禍が加速させたということでしょう。そうした環境変化よりも、日本では3つの課題に対する対応が追い付かずギャップが拡大していることのほうが深刻です」
3つの課題とは①人口減少への対応、②知識社会・知識経済への転換、③デジタル化の推進だ。何年も前から指摘されていることだが、官も民も動きは鈍い。その結果じりじりと国力が落ち、IMD(国際経営開発研究所)の2020年版「世界競争力ランキング」によると、日本は米国はもとより中国や韓国にも後れを取り、34位まで後退した。
「日本は米国や中国に伍していくのだという“大国主義”を捨てて、イノベーションに集中し、ギャップを埋める努力をしなければなりません」
そこで企業は経営や組織をスタティックからダイナミックなパラダイムに転換させ、「知」という生産手段を持つナレッジワーカーの力を活用すべき。
「ナレッジワーカーに力を発揮してもらうためには、まず、ワーカーが自律的に働くことができる組織に変えること。たとえばオランダで広がったABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング=仕事の内容によって場所や時間を選ぶ働き方)を導入し、オフィスを変えることが望ましい。組織やオフィスを変えずにABWを導入しただけではうまく機能しません」
そのとき、重要となるキーワードが、“ワークプレイス・エシックス(職場倫理)”。この場合のエシックスは、一般に解釈される道理や規範ではない。
「ワーカーが自律的に働くことには自由と責任の問題が付いて回りますが、そのためにワークプレイスで共有される創造的精神がエシックスです。例を挙げれば、米国のネットフリックスは社員たちの判断に可能な限り任せる“ノー・ルールズ(NO RULES)”を貫いています。エシックスを共有した大人の集まりだから、自由に働いてもらうことでむしろ生産性が上がるのです」
社員の管理が難しくなる、と尻込みする経営者は考えを改めるべきだ。