3度目のブームを迎えたといわれるAIは、過度な期待のピークを越え、ビジネス変革にどう活用するかを冷静に見定める時期に入った。では、AI導入の目的や適用領域、活用方法をどう見定めるべきなのか。AIソリューションの開発・導入を数多く支援するLaboro.AI(ラボロ エーアイ)のCTO(最高技術責任者)に聞いた。

ビジネス要件定義が不十分な
AI活用は失敗する

 テクノロジーの成熟度を示す米ガートナーのハイプ・サイクルによれば、AIに対する過度な期待はピークを過ぎ、幻滅期に入ったとされる。「確かに数年前に比べると、『AI万能論』のような過度な期待は減り、AIを課題解決の手段として冷静に捉える企業が増えてきました」。Laboro.AI代表取締役CTOの藤原弘将氏はそう語る。

 だがそれは、AIの導入・活用がうまくいっていることを意味するわけではない。Laboro.AIには、AI導入プロジェクトに失敗した企業、期待した成果を上げられなかった企業からの相談が非常に増えているという。

「とにかく『AIを使いたい』というWhatのフェーズを脱したいま、AIを『なぜ使うか』『どこに使うか』『どう使うか』を考え抜くことが必要なフェーズに移行しています」と、藤原氏は指摘する。

Laboro.AI
藤原弘将 代表取締役CTO

 これはITにたとえると理解しやすい。いまやどんな企業でもITがなければビジネスは回らない。だからこそ、もはや“IT化”自体が目的となることは少なく、ビジネス課題を解決するための手段として、投資対効果を見極めながら最適なIT技術を選定する。

「用途と技術の掛け算で創出価値や投資対効果が決まるのは、AIも同じです。使うこと自体を目的化すべきではなく、あくまでビジネス課題が先にあり、それを解決する手段として技術を選定することが必要です」(藤原氏)

 では、AI導入がうまくいかなかったケースに見られる典型的なパターンとは、どのようなものなのだろうか。藤原氏は「大きくは2つのパターンが見られます」と言う。

 1つは、事前のビジネス要件の定義が不十分なこと。AIでどのような課題を解決すべきかが不明瞭なまま、プロジェクトを走らせているケースが多いのだ。また、何をもってプロジェクトが成功したと判断するのか、その基準があいまいなケースもよく見受けられるという。

「たとえば、工場での検品にAIを活用し、『9割の精度を目指す』と言っても、それが特異度なのか、再現率なのか、あるいは適合率なのかで、意味はまったく変わってきますし、9割の精度を出せなかった場合のプランB、プランCもあらかじめ考えておかなくてはなりません」

 需要予測もAI活用のホットなテーマの1つだが、需要を左右する要因は、季節、天候、気温、景気動向、広告出稿や販促活動、競合商品の売れ行きなど数限りない。一部のデータだけをAIに学習させると、当然バイアスのかかった予測結果をAIは導き出すことになる。「そもそもAIに何を計算させるのか、予測された結果をどう使い、現場のオペレーションにどう落とし込むのか。そこまで人間が知恵を絞ることが必要です」。