グローバル化は新たな段階を迎えている

 財政難による格差が生んだ不均衡な成長。失業率の高止まりによって特に先進国で生じている保護主義の脅威。民族や宗教、言語の違いをめぐって貧困国だけでなく富裕国でも生じる緊張、そして新たな分離主義・部族主義の時代をめぐる論議。

 これらは我々が慣れ親しんでいた話──「市場は国境を超えて完全に統合されようとしている」「技術によって距離は存在しなくなる」「政府はもはや無意味である」──と矛盾する。2008年の金融危機の余波とは、いまなお「違い」が重要であることを、多くの事例を通じて思い起こさせるところにある。

 それはまた、グローバルな経営者、あるいはグローバル企業の意味について、再考が求められているということでもある。グローバリズムに関する経営論の多くが拠って立つのは、18世紀の哲学者イマヌエル・カントが提唱した啓蒙時代の理想である。すなわち世界市民を目指して「国家、人種、民族への忠誠」を捨て去るという考え方である。