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CQとは何か
ロンドンのヒースロー空港などの国際空港で、世界的金融グループ、HSBCのポスターを目にされたことがあるだろうか。そこには、一匹のバッタの写真に「アメリカでは害虫、中国ではペット、タイ北部では前菜」というキャプションが添えられている。
バッタ科の定義が定められたのは、200年以上も前のことである。しかし、文化の違いとは恐ろしいもので、こんな小さな昆虫に関する認識でさえ、国によって異なる。当然、人間の所作や話し方にまつわる解釈はいっそう複雑で、不案内な国で事業を展開する場合、文化的な誤解から協力関係が築けないというケースもあろう。
しかしなかには、異国のわかりにくい慣習を、まるでその国の住人のように、あるいは仲間ごとく正しく解釈し、すっかり真似できる人もいる。我々はこの才能をIQならぬ「CQ」(cultural intelligence:文化的能力指数)と呼んでいる。
日々国籍を超えてコミュニケーションしなければならない職場の場合、CQはきわめて重要な資質であり、またスキルである。もちろんCQが必要なのは、HSBCのようなグローバル金融グループの行員とその顧客だけではない。
どこの国にも独自の文化があるように、多くの企業にも固有の社風がある。新入社員がその企業文化に慣れるまでには数週間かかる。さらに大企業になれば、対立する派閥があったり、営業部は技術部と言葉も交わさないとか、広報部と顧問弁護士が犬猿の仲といった裏事情があったりする。
それぞれの部課、職種、地域によって、流儀、優先順位、成り立ち、価値観が異なり、これらは外部の人間からはなかなかうかがい知れないため、それが原因でトラの尾を踏んでしまうことがある。そうならないためにも、高いCQが必要だ。
CQとEQ(心の知能指数)には重なる部分がある。ただしCQは、EQに含まれない部分もカバーしている。たとえばEQの高い人は、万人に共通する感情を理解し、同時に個人に特有の要素を把握する。
ところが、CQの高い人は、すべての人、あるいはグループに共通する要素、また個人もしくはグループ特有の要素を把握しているうえ、さらに、これら前者と後者との間に位置づけられる要素──この広い領域は文化的背景に由来している──についても理解できる。