西日本電信電話株式会社副社長 坂本英一(左)│デロイト トーマツ コンサルティング合同会社パートナー 西上慎司

関西経済同友会の未来ビジネス委員会では、テクノロジーが発展した未来社会におけるビジネスの可能性を展望し、「ウェルビーイング」を切り口とした新たな提言をまとめようとしている。

一方、デロイト トーマツ グループは2021年春、ヘルスケアの未来像を示すリポート「データドリヴン・ライフブリリアンス」を発行した。同リポートを監修した西上慎司氏が、未来ビジネス委員会委員長を務めるNTT西日本副社長の坂本英一氏と、ヘルスケア領域で日本が世界をリードしていくための課題について話し合った。

テクノロジーが進展した未来社会における新しいビジネスの可能性

西上 2020年10月にNTTからNTT西日本に異動され、関西経済同友会「未来ビジネス委員会」の委員長に就任されました。この委員会について、ご紹介いただけますか。

坂本 関西経済同友会は2020年度に「未来社会の課題発見と新たな挑戦」というテーマを掲げ、その課題の一つとして「関西の持続的発展」を挙げました。これを受けて、テクノロジーが進展した未来社会における新しいビジネスの可能性を調査・研究・提言する目的で設けられたのが「未来ビジネス委員会」です。

 委員会の活動は通常1年ですが、非常に壮大なテーマに取り組む委員会ですから、活動期間を2年としています。1年目は幅広い産業分野やテクノロジーについて、先進的な知見をお持ちの方々に話を伺ったり、視察のためにさまざまな現場に足を運んだりしました。

西上 テクノロジーと未来社会をかけ合わせた新規ビジネスの検討はあらゆる産業に共通するアジェンダですが、幅広いインプットを検討した結果、その中からヘルスケアにフォーカスしようということになったのですね。

坂本 委員会活動の2年目は、提言をまとめていくということになります。1年目の活動を踏まえ、大きな方向性は固まっていたのですが、その中から「健康・医療・介護」といったヘルスケアの分野にフォーカスすることが決まりました。その背景として一つは、大阪・道修町で知られるように、関西には医薬品メーカーや医療機器メーカーが多く、ヘルスケア産業の下地があるということは大きいですね。

西上 道修町は江戸時代からの薬種問屋街ですね。関西にはヘルスケア産業に関わる企業が多いとはいえ、特定産業にフォーカスを当てることに対して、関西経済同友会として懸念などはありませんでしたか。

坂本 そうですね、病気になってからの医療や薬に絞ると範囲が限られるので、もう少し広げて、病気になる手前の未病・予病を中心とするヘルスケアビジネスの未来を考えようということにしました。

 背景としてはもう一つ、2025年に開催される大阪・関西万博のテーマが「いのち輝く未来社会のデザイン」である点も大きいです。「健康・医療・介護」はまさに、このテーマにも合致するものです。

 関西経済同友会には医療関係以外にも、健康食品会社や保険会社といったメンバーが参画しており、未病や健康の領域に対して非常に興味・関心を持っていますし、かつ強みもあるだろうということで、テーマが決まりました。

 個人的なことを申し上げると、NTTで健康保険組合の理事長を務めた経験があり、また、遺伝子検査情報などをもとに企業の健康経営をサポートするNTTライフサイエンスという会社を立ち上げたこともあるものですから、ヘルスケアの未来に関して提言をまとめることには、大きなやりがいを感じています。

西上 コロナ禍をきっかけに、世界中で健康に対する意識がいっそう高まっており、リテラシーも上がっています。「健康・医療・介護」をテーマとした提言を出されるのは、まさに時宜を得たものですね。

坂本 おっしゃる通り、コロナ禍で認識が新たになったことは多々あります。新しいものをつくっていかなくてはならないという機運や、生活者一人ひとりの健康に対する意識が高まり、従来の価値観が変わるきっかけになったのではないでしょうか。

 気候変動の問題も背景にありますし、「新しい資本主義」といったことが掲げられる世の中において、従来のような成長一本槍で、環境に負荷をかけながら人が都市に集中して住み続けるのは本当に幸せなのか、といったことも考えさせられました。

 また、リモートワークで毎朝の通勤がなくなり、体だけでなく心も楽になったという人や、家族と過ごす時間が増えてその大切さを再認識したという人も少なくないようです。