「やってみなはれ」の精神で、日本の活性化をリード

西上慎司
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ライフサイエンス&ヘルスケア パートナー

民間シンクタンクを経て現職。製薬、医療機器メーカーを中心に、マネジメント変革、グローバル組織設計、デジタル戦略・組織構築などのプロジェクトを手掛ける。ヘルスケアの未来像を描いた「データドリヴン・ライフブリリアンス」の監修など、講演・寄稿多数。

西上 日本は決まった枠組みの中で、工夫しながらビジネスを拡大していくのは得意ですが、何もない土地でルールをみずからつくり、新しいビジネスを立ち上げるのは、あまりうまくないように感じています。

 坂本さんがおっしゃったように、ライフサイエンスやヘルスケアを含めてウェルビーイングを切り口としてグローバルにビジネス展開していくには、政府の後押しを受けながら国際的なルールを整備したうえで、諸外国に積極的に働きかける活動が欠かせないと思います。

 そのあたりを、関西ならではの「やってみなはれ」の精神でリードしていただけると、日本も活性化されていくのではないでしょうか。

坂本 私どもNTT西日本としても、社会的使命を果たしつつ、新しいビジネスに取り組まなくてはいけないという思いを強く持っています。

 たとえば、2021年7月にパラマウントベッド社と合弁で、睡眠データを活用したオンラインヘルスケアサービスを提供する新会社「NTT PARAVITA」を立ち上げたのも、そういう思いがあるからです。

 当社は2017年から、IoTデバイスを用いて高齢者の睡眠データをAIで解析して、認知機能の低下を検知するフィールド検証を自治体などと共同で行ってきました。一方、パラマウントベッド社は、医療・介護ベッドだけでなくマット型睡眠センサーでも国内トップシェアを持っています。両社の力を結集して、病気予防や健康増進に関するサービスを展開していく予定です。

西上 西日本を事業エリアとする固定通信会社という、一般的なイメージを覆すような新しい取り組みですね。

坂本 私はNTT東日本にもいたことがありますが、NTT西日本と東日本は双子の会社でありながら、大きく違う部分もあります。たとえば、NTT東日本は東京という一極集中の大市場を持っています。それに対して、西日本は関西圏が一番大きな市場ではありますが、全体に占める比率は3割ほどで、東海、中国、九州、四国、北陸とバランスのよい構成になっています。

 市場が分散している分、通信インフラを整備・保守するための投資も分散してしまうというハンディがあることは確かですが、ウェルビーイングの視点に立ってみると、極端な人口の集中がなく、自然豊かな環境で生活できる、そのように人々の価値観が変わってきているというのは大きなアドバンテージだと思います。

 東京に比べて人が少ないことを弱点ととらえるか、それを強みに変えようとチャレンジするかで、ビジネスフィールドの広がりはまったく違ってきます。もちろん、人口減少や高齢化の問題をどうするかは大きな地域課題ですが、やがては主要各国が直面する課題ですから、その解決に取り組むことで、将来はその知見やノウハウをグローバルに展開できる可能性が出てきます。

西上 産官学の関係でも、東日本と西日本の違いを感じるところはありますか。

坂本 産学の関係が緊密なことも、関西の持ち味だと思います。たとえば、京都大学、大阪大学、神戸大学など、産業界との関係は関東より近いと思いますし、産学連携でいろいろなことにチャレンジしています。

 たとえば、京都大学とNTT、NTT西日本は包括的な連携推進契約を締結しており、その一環として2020年に臨床情報を極めて高いセキュリティレベルで管理・統合・解析して、医療技術の向上や医薬品・医療機器の開発につなげていくことを目的とした「新医療リアルワールドデータ研究機構」(略称:PRiME-R)を設立しました。

 PRiME-Rでは、さまざまな医療機関や学界、企業などと協働しながら、次世代医療の発展に貢献しようとしています。

 関西の大学は純粋な研究に留まらず、その成果を実際のフィールドに活かしていくことに関して、すごく先進的な気がします。

西上 おっしゃるようなビジネスも見据えた産官学連携は、非常に先進的ですね。ビジネスの未来を担う若い人たちには、どんな期待を持っていますか。

坂本 世代に関係なく、世の中には新しいことに興味を持って積極的にチャレンジする人もいれば、そうでない人もいます。「いまの若い人は」という批判的な発言を耳にすることもありますが、私はまったく心配していません。むしろ、我々の時代よりもはるかに高い志を持って行動を起こす人や、社会的起業にチャレンジする若者たちがいます。

 現代は、私たちの時代より不確実性の高い時代になっています。それだけに、これをしなくてはだめだとか、ここでレールを外れたらもう終わりというような発想はやめて、人生には何度でも学び直し、やり直しのチャンスがありますから、どんどんチャレンジしていってほしいと思います。

西上 坂本さんご自身にとって成し遂げたい夢は何ですか。

坂本 私が入社したのは、通信の自由化を背景に日本電信電話公社が民営化し、NTTが発足した直後でした。当時は、事業を通じて社会に貢献していくんだという熱気が、社内にあふれていました。

 そういう初心を忘れずに、我々が持っている技術やノウハウを活かしながら、地方創生を含めて日本全体を元気にしたいという思いがあります。それをグローバルに展開できれば、なおさら嬉しい。その思いを社員と共有して、夢の実現に向かっていきたいですね。

西上 やはり、何のために会社が存在しているのか、自分は仕事を通じて世の中にどう貢献していきたいのか、そういう価値観を共有できていることが組織の力の源泉になると思います。NTT西日本、そして関西経済同友会がつくろうとしている未来に期待していますし、私たちデロイト トーマツ グループもその未来づくりに何らかの形で参画できればと思います。