デロイト トーマツ コンサルティングは2021年11月10日、『自動車業界のLCA対応とその先へ 見える化から始まる脱炭素に向けた3ステップ』と題するウェビナーを開催。日本の自動車関連企業によるライフサイクルアセスメント(LCA)への対応方法とともに、その先のステップである脱炭素化のための「シナリオ分析」「対策導入戦略」に至るまでの提言を行った。その内容の一部を紹介する。

GHG排出量削減に向けた4つのステップ

 ウェビナーの冒頭には、自動車、エレキ、エネルギー分野にて官公庁や企業向けのマクロトレンド・技術動向分析・戦略策定の支援等を手掛けるインダストリーソリューション ディレクターの新見理介氏より、本題に入る前の基礎知識として、LCAの導入背景と概要について説明した。

デロイト トーマツ コンサルティング
ディレクター
新見 理介 氏

 2016年11月にパリ協定が発効して以来、脱炭素社会を見据えた議論および取り組みはグローバルに活発化している。日本でも2019年6月、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が閣議決定され、これを受けて2020年10月、菅義偉前首相が臨時国会の所信表明演説で、国内の温室効果ガス(GHG)の排出を2050年までに「実質ゼロ」とするカーボンニュートラル宣言を行った。

 新見氏はこうした流れの中で、「産業界は、環境負荷を一定の評価軸に基づいて“見える化”するLCAへの対応が求められるようになりました」と説明する。

 そもそもLCAとは、製品やサービスのライフサイクルを通じた環境への影響を評価する手法であり、環境マネジメントの国際規格「ISO14040/44」として規格化されている。

 LCAでは、企業が自社で使用した燃料の量(スコープ1)、自社で使用した電力量(スコープ2)をもとにGHG排出量を把握するほか、調達先や販売した製品といったライフサイクルの「上流」「下流」のGHG排出量についても算定する必要がある(スコープ3)。

 新見氏は、「欧州を中心にライフサイクルでの排出量の把握は不可避となりつつあり、日本の自動車産業のものづくりに大きな影響を及ぼすことになります」と指摘する。

 業界側も重く受け止めており、日本自動車工業会の豊田章男会長が2021年に入ってから「2050年のカーボンニュートラルに対応しないと、日本では車がつくれなくなる。その結果、自動車産業に従事する約550万人のうち、70万から100万人の雇用が失われる可能性がある」と懸念を示していることを紹介した。

 そのうえで新見氏は、(1)LCAに対応した戦略構築と、(2)GHG排出量の見える化(LCA)に加え、(3)排出量削減に向けたシナリオ分析、(4)対策導入の4つのステップでGHGの排出量削減に取り組んでいくことを提案した。

素材・部材とロケーションの見直しを

 2人目のスピーカーとしてデロイト トーマツ コンサルティングのディレクターで、自動車セクターの事業戦略リードを務める後石原大治氏より、新見氏が挙げたGHG排出量削減のための4つのステップのうち、1つ目に当たる「戦略構築」の考え方や進め方について解説した。

デロイト トーマツ コンサルティング
ディレクター
後石原 大治 氏

 後石原氏はまず、新型コロナウイルス感染症からのグリーンリカバリー(GHG排出を抑えながら経済回復していく考え方)が求められている中で自動車産業のカーボンニュートラル化への取り組みは大きく変化しているという見方を示した。

 具体的な変化の中身について、後石原氏は「コロナ禍以前は、内燃機関車(ガソリン車、ディーゼル車など)からEV(電気自動車)へのシフトによって車両走行時のGHGを減らすことが主なテーマでしたが、コロナ禍以降は、ライフサイクルを通じた脱炭素化に対応するため、いかに環境負荷の低い素材や部材を調達するかという『素材・部材戦略』や、どの国・地域で製造・調達し、どの国・地域で売るのかという『ロケーション戦略』が重視されるようになっています」と説明した。

 たとえば素材では、以前はCO2削減のため、EV化とともに、軽量で高強度の素材を検討する取り組みが活発であった。鉄よりも、アルミニウム合金や炭素繊維強化樹脂(CFRP)などの素材を使用する割合が高まり、複数の素材を組み合わせて強度を高めることと軽量化の両立を図る傾向が強かった。