しかし、「素材製造時に排出されるCO2量を比較すると、鉄よりも、アルミニウム合金やCFRPのほうが多く、『上流』(素材の調達先)も含めたライフサイクルで見ると、むしろ一部の素材については、鉄を選んだほうが望ましい場合もありうると考えられます」と後石原氏は指摘した。

 このほか、上流工程においては、バイオマス素材などの低炭素素材や、リサイクル材の活用、グリーン調達の推進なども、ライフサイクルにおける排出量削減のために有効な施策であるとの考え方を示した。

 また、ライフサイクルの「下流」に当たる製品のリサイクル・廃棄工程に配慮して、解体やリサイクルしやすい素材の選定や、設計の工夫を凝らすことなども提言した。

 一方、「ロケーション戦略」については、2023年以降に「国境炭素調整(CBAM)」が開始される予定となっており、欧米に製品を輸出する場合、関税のようにライフサイクルを通したGHG排出量に基づいて課税される仕組みになることから、「どこで製造・調達し、どこで売るのかによって、コストが大きく変動する可能性があります」と後石原氏は指摘。

 再生可能エネルギー比率の低い日本や中国、インドなどで生産すると、CO2排出量は増え、コスト高となる可能性があることを説明した。

 そのうえで後石原氏は、「自社のサプライチェーンや、販売先全体の脱炭素化に向けた動きをシナリオ化し、それに合わせて調達先のロケーションを再構築していくのが望ましいと言えます」とアドバイスした。

 また、ある欧州の完成車メーカーが、自社が調達している素材や調達先のGHG排出量、トレーサビリティなどの情報を公開している事例を挙げ、「ライフサイクルを通じたGHG排出量削減の取り組みを顧客にアピールすれば、ブランディングなどに役立てることもできます」と説明した。

「サステナブルものづくり」を実現するために

 続いてデロイト トーマツ コンサルティング パブリックセクター シニアマネジャーの越智崇充氏より、GHG排出量削減への2つ目から4つ目のステップである「排出量の見える化(LCA)」「シナリオ分析」「対策導入」について、自動車産業のみならず、製造業全般における取り組み方の例を紹介した。

デロイト トーマツ コンサルティング
シニアマネジャー
越智 崇充氏

 越智氏は、製造業がライフサイクルを通じたGHG排出量削減に取り組みながら企業活動を行っていくことを、デロイト トーマツ コンサルティングでは、「サステナブルものづくり」と呼んでいると説明。

 そのうえで、「『サステナブルものづくり』を実現していくためには、カーボンフットプリント(ライフサイクル全体のCO2排出量)を共通言語として、調達先との連携を密にしつつ、サプライチェーン全体を通した環境負荷を低減し、その価値を世の中に訴求していくことが求められています」(越智氏)と述べた。

 たとえば、従来の脱炭素化への取り組みは「自社視点」(スコープ1・2のみ)、排出量に関する情報共有は自社から調達先への「一方通行」であったが、これをライフサイクルの上流から下流までを含む「サプライヤー視点」(スコープ3)、互いの排出量情報を共有しながら一緒に削減に取り組む「双方向」に変えていく必要があると提言。さらに、「従来はものづくりのKPIに含まれることが少なかった『環境価値』を、製品の『機能』や『コスト』と同等の指標としてとらえ、他のKPIとのバランスを考慮していくことが重要になっています」(越智氏)との考えを示した。

 また越智氏は、「サステナブルものづくり」の仕組みを構築するポイントとして、ビジネスモデルづくりやデザインの段階では、上流や下流も含めた環境負荷を定量化し、それをいかに減らすかを検討すること。製造・物流の段階においては、工場や輸送手段から排出されるGHGの量を見える化したうえで、効果の高い順から、グリーン調達や再エネ調達、スマートファクトリー化などの施策を打っていくことを提案した。

 GHG排出量削減へのステップのうち、「排出量の見える化(LCA)」については、「ひとまず社内システムから必要なデータを抽出し、それを外部のCO2データベースと照らし合わせて手計算することから始めてみてはどうでしょうか。計算のためのロジックが確立されたら、API連携などで社内システムとCO2データベースを繋ぎ、自動計算するシステムを構築するのも一つの方法です」(越智氏)とアドバイスした。