100年に一度の変動期であるいま、企業が実行すべきプロジェクトにあふれている。しかしながら、それらすべてを実行することは不可能である。経営層には「選択と集中」「変化へのアジャイルな対応」が求められている。そんな中、プロジェクトマネジメント(PM)実行を支援するマネジメントソリューションズ(MSOL)は、戦略的な取り組みの力点を、プロジェクト単体の「PMO」からプロジェクト横断の「Enterprise PMO(EPMO)」に移している。同社のエグゼクティブ・ディレクターの和田智之氏が、「EPMO」とは何か、「PMO」との違いや連携のあり方などを解き明かす。

エグゼクティブ・ディレクター 兼 マネジメントコンサルティング事業部長
和田智之
TOMOYUKI WADA
プロジェクトが増えると成功率が低下するのはなぜか
プロジェクトエコノミーの拡大を受けて、日本でも多くの企業が積極的にプロジェクトを立ち上げて実行し始めている。しかし、組織全体のプロジェクト実行数が増加するにつれて、多くの企業がある問題に直面する。それは、プロジェクトの成功率低下である。
なぜそんなことになるのか。最大の原因は、複数のプロジェクトを横断的にとらえて対処していないことにある。
多くの事例を見れば、複数のプロジェクトを俯瞰した「選択と集中」がほとんどなく、多数のプロジェクトに浅く広く人材を配置し、兼務が多用されている。その揚げ句、不足分の要員リソースを外注先に依存して、何とかプロジェクトを推進することになる。
その結果、精鋭部隊であるはずのDX(デジタル・トランスフォーメーション)部門や経営企画部門などのコアメンバーたちでも、目の前の作業をこなすのに精一杯となり、疲弊して能力を発揮できず、不十分な結果に終わる。
詳しくは後述するが、ほかにも経営層が、情報不足ゆえの危機感から拙速なモニタリング強化策を取り、プロジェクトにマイナスの影響を与えてしまうケースも少なくない。
こうした状況下で、多くのプロジェクトの成功率を上げるために、個別のプロジェクトマネジメント(PM)のやり方の強化や最適化で対応するのは適切ではない。必要なのは、全社、あるいは部門全体のプロジェクトを横断的にとらえるマネジメントであり、それを担うのがEPMOなのである。
では、PMO(Project Management Office)とEPMO(Enterprise Project Management Office)はどこがどう違うのだろうか。
「守備範囲」が異なるPMOとEPMO
PMを実行する組織として、一般的に広く知られているのは個々のプロジェクトの成功率を高めるための「PMO」である。PMOは、基幹系システム開発や新規事業立ち上げなどの、大規模、複雑、変化が大きいプロジェクトのリーダー直下に設置される。
このようなプロジェクトは、進捗、課題、リスク、関係者調整などに関するマネジメント負荷=工数が大きい。そのため、プロジェクトリーダーが適切にリーダーシップを発揮したり、クリエイティブでダイナミックな発想をしたり、急な変化やトラブルに対して早期に適切な対処を行ったりすることを可能にするための支援組織が必要となる。一つのプロジェクトに対して、小規模なPMOだと1人、大規模なPMOだと数十人ものメンバーが参画することもある。
一方、「EPMO」はPMOとは守備範囲が異なり、プロジェクトを横断的にとらえ、投資対効果(ROI)を「最適化」することを目的としている。
「最適化」という表現を使ったのは、必ずしも短期的なリターンだけでなく、中長期的な先行投資も含まれるためである。このため、EPMOは、通常は経営層直下に設置される(図表1参照)。
重要なプロジェクトに関して、優先順位付けを行い、必要なリソース(ヒト、モノ、カネ)を割り当てて「不測の事態が起きなければ、成功できるはずのプロジェクト」を組成し、外部環境(市場変化、代替手段や技術など)や内部環境(予算超過や進捗遅延など)の変化に合わせて、プロジェクトの改廃を含む優先順位の変更とリソースの再配置を行う。
このことにより、不確実性の高い状況下でも戦略に合致し、かつ、企業変革活動の投資効率が高いプロジェクト運営を行うことが可能になる。
EPMOは、全社で一つ設置することが多いが、巨大企業の場合には事業部ごと、あるいは、全社と事業部の双方に設置することもある。