ヤマトグループは経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」で、データ・ドリブン経営への転換を宣言した。そのカギを握るのが、フィジカルとサイバーが融合した「ヤマトデジタルプラットフォーム」の構築だ。
一方、RFID(無線自動識別)ソリューションの分野で世界的なリーダー企業であるエイブリィ デニソンは2021年春、フィジカルな世界とデジタルな世界をつなぐデジタルプラットフォーム「atma.io」(アトマアイオー)を立ち上げた。
両社はデジタルプラットフォームによって、どのようにビジネスを変え、顧客体験を変えようとしているのか。ヤマト運輸執行役員の中林紀彦氏と、エイブリィ デニソン日本法人でマネージング ディレクターを務める加藤順也氏が語り合った。

21億個の荷物を運ぶフィジカルなリソースをデジタルでつなぐ
加藤 御社では、フィジカルとサイバーが融合した「ヤマトデジタルプラットフォーム」の構築を進めていると伺っていますが、どのような思想に基づいて設計され、どのような構造を持つものになるのでしょうか。
中林 ヤマト運輸は、年間に約21億個の荷物を運んでいます。それを運ぶためにトラック約5万7000台を自社で保有し、約6万人のセールスドライバーがいます。拠点としては、約3700の宅急便センターと、77の中継ターミナルがあります。
また、個人会員のクロネコメンバーズは約5000万人、法人会員のヤマトビジネスメンバーズは中小企業や小売店なども含めて130万社以上の登録があります。
このように豊富なフィジカルリソースと膨大な顧客接点がありますが、そこで生まれるデータをデジタルプラットフォーム上に吸い上げ、フィジカルとサイバーを融合させようとしているのがヤマトデジタルプラットフォームです。
クラウド上ですべてのデータを保存・整理、処理・分析するのではなく、センターや中継ターミナルなどネットワークの拠点でもデータを保存、処理する環境をつくり、必要なデータをクラウドに上げるアーキテクチャーを構想しています。
デジタルプラットフォーム構築の目的は主に2つあります。一つは、顧客体験の最適化です。
たとえば、宅急便の受け取り時間を午前中に指定すると、荷物が届くまで最大4時間待つ必要があります。現状では荷物のデータを2〜3時間ごとにバッチ処理しているため、荷物がいまどこにあるのかをリアルタイムで把握することができません。
これをリアルタイムで把握できれば、荷物がいまどこにあるのか、あとどれくらいで届くのかという情報をお客様に提供できます。急な用事で出かけなくてはならなくなった時、お客様が受け取り時間を変更したり、あるいは出先で荷物を受け取れるようにしたり、そうした新しいサービスと顧客体験を提供することが可能になります。
もう一つの目的は、データ・ドリブン経営への転換です。データによっていま目の前で起こっていること、過去に起こったことをとらえるだけでなく、デジタルプラットフォーム上にフィジカルな世界を写し取ったデジタルツインをつくり、そこで人工知能(AI)を活用した予測やシミュレーションを行うことで、人や車両といったフィジカルリソースの最適な配置を決めるなど、将来に向けたアクションの意思決定に役立てようとしています。
加藤 目指している世界にたどり着くには、どれくらいの時間がかかりそうですか。
中林 これまでは機能ごと、グループ企業ごとにさまざまなシステムがあり、データがサイロ化していました。それを一つのシステム環境に移行しながらデジタルプラットフォームを構築していくことになります。
当社グループは、2021年4月から中期経営計画「One ヤマト2023」をスタートしましたが、2023年度までの3カ年の中で、必要なデータセットはデジタルに写し取れる段階まで進めたいと考えています。