デジタルツインを実現した先に見えてくるもの

加藤 2020年1月に発表された経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」では、データに基づいたデジタル起点の経営への転換が大きなテーマの一つとなっていますが、中林さんご自身はヤマト運輸をどのように変革していきたいとお考えですか。

中林 最優先の課題は、デジタルツインをきちんとつくり、さまざまなシミュレーションをしながら未来の姿を予測し、それに基づいた経営の意思決定のサポートや、現場のオペレーションの改善につなげることです。

 デジタルツインが実現した先には、ダイナミックプライシングやダイナミックルーティングの可能性も見えてきます。たとえば、「いま、このルートは比較的空いているから、荷物を安く運べますよ」とお客様にご提案することや、災害が起こった時は柔軟にルートを変えて、少し遠回りしてもきちんと荷物が届けられるルートを提案するといったことです。

 もう一つは、先ほども申し上げた顧客体験の最適化です。たとえば、荷物を受け取るために自宅でじっと待つのではなく、お客様のライフスタイルや生活動線に合わせて、必要な時に都合のいい場所で荷物を受け取れるようにする。お客様が商品を注文した時に、いつ、どこで、どう使いたいかを聞いておけば、翌日に自宅に届けなくても、2日後に駅の宅配便ロッカーで受け取れるようにするといったご提案ができます。そうすると、当社としても急いで運ぶ必要がなくなり、お客様が受け取りたいタイミングでお届けできることで再配達が減り、結果として配送に伴うCO2の排出量を減らせる可能性が広がります。

加藤 御社のように意思決定プロセスを変えるとか、顧客体験を最適化するという課題設定が明確でないと、デジタルやデータをうまく活用することは難しいと思います。

加藤順也
エイブリィ デニソン スマートラック ジャパン
マネージング ディレクター

LVMHグループ、Kurt Salmon US Incを経て2011年にAvery Dennisonに入社、2019年4月から現職。小売業や消費財メーカーへのコンサルティングやソリューション開発が専門。Avery Dennisonにおいて、マーケット開拓やRFID導入プロジェクトをリードし、日本支社の成長を牽引。上智大学卒。UCバークレーHaasビジネススクール DLAP修了。

 少し古い話ですが、1970年代にセブン-イレブン・ジャパンがPOSシステムを導入したのは、レジでの会計処理を効率化することよりも、単品管理という経営モデルを実現することに本質的な目的がありました。POSデータをリアルタイムに近い形で取れるようになり、単品ごとの売れ筋と死に筋を把握でき、それを補充発注や生産・配送計画、商品開発などに活かすことで、ビジネスがダイナミックに変わりました。

 データ活用には二つの視点があると考えています。一つは、ビッグデータの取得です。これまでは取得することが難しかった大量のデータを瞬時に、そして正確に取得・活用し、ビジネスを変革することで、顧客価値や企業価値を大きく高めることができます。ここではRFIDが役立ちます。

 もう一つの視点は、UII(Unique Item Information)の記録・共有です。デジタルIDを通して取得したそれぞれのモノにまつわる情報を、適切に顧客や社会と共有できる仕組みを整えることで、これまで見えなかった商品のヒストリーや隠れていた価値をきちんと消費者に見せていく。それを実現できるソリューションとしてatma.ioというプロダクトプラットフォームの活用例を増やしていきたいと考えています。

 たとえば、サステナビリティの観点から必要な投資を行っているために、商品価格が他の商品よりも高くなっている商品やサービスがあるのであれば、その背景にあるストーリーを消費者に伝え、共感、賛同してもらう必要があります。それによって、消費行動が変われば、企業に利益をもたらし、新たな投資を行うことで、消費者にさらにいい商品や体験を提供することができる。そんなデータ・ドリブンの意思決定サイクルをユーザーや企業と一緒につくっていくのが、私たちのミッションです。

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■お問い合わせ
エイブリィ デニソン スマートラック
URL:https://rfid.averydennison.jp/