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売上げを22倍させたサーカス団
ガイ・ラリバーテはかつてアコーディオンを演奏し、竹馬に乗り、火を食べてみせる軽業師だった。しかし、いまやカナダを代表するサーカス団「シルク・ドゥ・ソレイユ」のCEOだ。この大道芸人集団シルクは1984年に結成されて以来、世界中の90都市で4000万人もの観客を魅了し続けてきた。
シルクは「リングリング・ブラザーズ」や「バーナム・ベイリー」など世界的トップ・サーカス団が1世紀以上かけてたどりついた売上げに、20年であっさりと追いついた。しかもこの急成長は、大変な逆境のなかで成し遂げられたのだった。
スポーツ・イベント、テレビ、テレビゲームなどのあおりを受けて、サーカス業界は当時もいまも長期的低迷の傾向にある。本来上得意であるはずの子どもたちは〈プレイステーション〉がお好みだ。サーカスには動物使いがつきものだが、動物愛護運動の余波を受けて世論の風当たりは強い。
また、リングリングなど、客を呼べるサーカス団のスターたちの人件費は高騰し続けている。観客数は減る一方、コストはかさむ一方だ。さらには、前世紀を通じて業界を築き上げてきた有名サーカス団が立ちはだかっている。
このような環境下、シルクはこの20年間で、いったいどのようにして22倍も売上げを伸ばしてきたのか。初期の興行の謳い文句に、その片鱗がうかがえる。「まったく新しいサーカスを」──。
シルクは業界の既存の枠組みに従って競争したわけでも、リングリングなど先行者たちの客を奪って成長したわけでもない。むしろ競争とは無縁のマーケット・スペースを創造し、大人や法人顧客など、これまでは客層と見なされていなかったまったく新しい顧客を掘り起こしたのである。
演劇、オペラ、バレエなどに慣れ親しんでいた顧客は、新しい切り口のサーカスという娯楽に、いままでより数倍も高い料金をためらうことなく支払った。