金銭欲は猛スピードで感染する

 2000年3月、それは霧がかかった夜のことだった。私は仕事場から帰宅し、ソファーに腰を降ろし、夜のニュース番組を観ようとテレビのスイッチを入れた。すると、CBSのダン・ラザーが「ナスダックが再び急騰し、5000ドルの大台に乗りそうである」と言う。

 これを聞いたとたん、胃がキリキリし始めた。私はハイテク株を買っていなかった。そのせいか、自分が刻々と貧乏になっているような気分に襲われた。せっぱ詰まった私はファイナンシャル・アドバイザーに電話をかけて、IT関連株を買うように指示した。

 必要な物を買えるだけのお金はあった。それゆえ、株で儲ける必要はなかったのだが、その瞬間、私は強烈に儲けたいという衝動にかられていた。いま振り返ってみれば、私が望んでいたのは、自分だけ取り残されたくはないということだった。

 ナスダックの終値が1000ドル近くまで下落した現在、アメリカ人はウォールストリートの証券アナリストやドットコム企業、そしてCEOの強欲ぶりに激しい憤りを感じている。

 タイコ・インターナショナルの会長兼CEO、デニス・コズロウスキーが会社の金を100万ドルも使って、イタリアの小島で妻君の誕生日パーティを盛大に開いたが、なぜそんなことができるのか。

 エンロンの元CEOケン・レイは、無一文になった社員たちには何もしなかったくせに、高騰を続けていた同社の株が暴落する直前にみずから保有していた自社株を売り抜けられたのはなぜか。

 ゼネラル・エレクトリックのジャック・ウェルチは莫大な富を手にしながら、どうして引退した後でも、スポーツ観戦の入場券や衛星放送の受信料を会社に支払わせることができるのか。

 カリスマ主婦、マーサ・スチュワートでさえ、インサイダー取引で濡れ手に粟をつかんだという嫌疑が上がっている(そしてこれは証明された)。