CEOの決定直後に
パンデミックが襲う

 ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)のCEO職を引き受けようと決めたのは、2019年の晩冬だった。その時点では容易な選択だと思えた。

 それまで、ホームセンター大手のホーム・デポに24年間勤務し、そのうち20年間余りはCFO職を務めた。退職して日が浅く、必ずしも新しい職場を探していたわけではなかった。だが、そんな筆者に白羽の矢が立ったのも、2003年からUPSの社外取締役を務めており、取締役会が次のCEOを探し始めた時に、そのリーダーの要件が筆者の経験およびスキルと合致していたからだ。社内の将来有望な候補者が成長するまでにはさらなる時間が必要であり、その準備が整うまで会社を導くことができるのは、アウトサイダーでもインサイダーでもある筆者だった。

 筆者は、UPSが素晴らしい組織であることを理解していた。そのブランド力は強く、企業文化と価値観は筆者自身のものと完全に一致していた。UPSは220余りの国や地域で事業展開し、約50万人の有能な従業員がおり、筆者は共通の目的を掲げて彼らを鼓舞したいと考えた。株価は6年間横ばいであったため、株主価値を創造するチャンスでもあった。また率直に言うと、夫は筆者が家から出て仕事を再開することをしきりに望んでいた。そのため、CEO職のオファーに応えるのは容易であったのだ。正式には2020年3月初頭に承諾し、6月に公式な引き継ぎを計画していた。