
いまや世界の時価総額トップ10にランクインするNVIDIA(エヌビディア)は、圧倒的なパフォーマンスを誇るGPU(画像処理半導体)をディープラーニングモデルの開発に応用することによって、人工知能(AI)研究の進化を支えてきた。
また昨今は、同社のデジタルツインプラットフォームが、R&Dやものづくり、さらには気候変動のシミュレーションなどに幅広く活用されるようになってきた。
エヌビディアの日本代表兼米国本社副社長の大崎真孝氏と、Deloitte AI Institute所長の森正弥氏の対談を通じて、コンピューティングパワーとAI、そしてシミュレーション技術の進化がもたらす未来を展望する。
GPUがAI研究の進化を牽引した
森 エヌビディアといえば、GPUに特化した半導体メーカーというイメージでしたが、実態はかなり様変わりしていますね。
大崎 少し前までは、ゲームやコンピュータグラフィックスの世界で知られる会社でしたが、近年は当社のGPUの圧倒的なパフォーマンスが評価され、人工知能(AI)や自動運転の分野でも欠かせない存在として認知されるようになりました。
たとえば、車両側でのエッジコンピューティング。これはリアルタイムで道路や歩行者、天候などさまざまな状況をセンシングして、車載AIで判断します。判断を誤れば事故につながる、ものすごくミッションクリティカルな技術で、そこで当社のGPUが役立っています。
自動運転車両とクラウドでつながったスーパーコンピュータにも当社のGPUが入っていて、エッジから集めたビッグデータをAIに学習させ、さらにAIを進化させています。
デジタルツインによるシミュレーションも我々が強みを持つ分野です。自動車には電動化、自動化を支えるECU(電子制御ユニット)がいくつも搭載されるようになっていますが、その開発過程で仮想空間におけるストレステスト、運転のシミュレーションを行います。そこでも、当社のGPUが力を発揮しています。
森 エヌビディアは半導体メーカーではなく、「コンピューティングプラットフォームの会社」だと、よくおっしゃっていますね。
大崎 我々は毎年、利益の20%をR&Dに投資しますが、GPUアーキテクチャーに集中投下しています。それは、ハードウェアとしてのGPUだけでなく、用途に応じてGPUのパワーを最大限引き出したり、使い勝手を高めたりするソフトウェアを含みます。顧客のアプリケーションまでつくることもあります。
一つのハードウェアアーキテクチャーの上に、さまざまなソフトウェアが載るようになっていて、システムとしてさまざまな産業に提供しているという意味で、コンピューティングプラットフォームの会社と定義しているわけです。
森 2012年にディープラーニングが再発見されてから、AIによる膨大な計算処理を支え、AIの性能を飛躍的に進化させるということで、GPUがどんどん使われるようになってきました。ですから、GPUがAI研究の進化を牽引したという印象を私は持っています。
大崎さんは、国内におけるGPUやAI活用について、どうご覧になっていますか。
大崎 日本には、これまで蓄積されてきたさまざまなストックがありますから、中国のようにリープフロッグ(カエル跳び)でいっきにデジタルに移行するというわけにはいきません。いまあるアセットを強みとして利用しながら、DX(デジタル・トランスフォーメーション)なり、AI活用を考えるべきだと思います。
実際、そのように考えている日本企業は多く、DXにおいて既存の強みをどう活かせるかという相談が増えています。業種は製造業だけでなく、創薬、不動産、銀行など多岐にわたりますし、伝統的な大企業から中堅・中小企業までさまざまなプロジェクトを支援しています。