ますます重要になる「パーパス経営」が
AI活用の新しい方向性を示す

 今日、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性を否定する企業経営者はさすがにいないと思われるが、ゴールは「ビジネスモデルの変革」と見据えてはいても、その実現が非常に難しいことをよく承知しているはずだ。通常は、最初に間接部門の、続いて直接部門の業務効率化へと進み、その先にデータやAIを使った新規事業の検討を始める段階的アプローチを取ることが多い。

シナモンAI
代表取締役社長CEO
平野未来

 平野氏は「業務効率化の場合は、ROIを基に全員が実行の必要性を共有できるが、その先のビジネス成長にAIのようなテクノロジーを役立てようとする場合はそう簡単ではない」と指摘する。自社がどこに向かおうとしているのか。AIを使うと、どんな世界が実現できそうか。臨場感を持って全社員とイメージを共有しなければならないためだ。

 つまり、重要なのは「パーパス経営」である。昨今、企業は大きな目的に向かって進んでいくべきだ、との声が高まっている。背景には顧客や株主の意識の変化もあるが、企業の中で働く社員の意識も変化している。「売り上げを増やせ」とげきを飛ばすだけでは社員は付いてこない。

 三井住友海上も中期経営計画の中で「サステナビリティ」に言及している。舩曵氏は、「サステナブルな社会を実現しなければ、損害保険のビジネスは成り立たない」と述べ、SDGsの実現を前提にビジネスを考えていくスタンスであると説明した。最初は課題解決のイメージが持てなかったが、前述の2つの新しいサービスをリリースできたことで、課題解決の実現可能性のイメージが具体化してきたとも話す。今後は「気候変動リスクへの対応」「地方創生」「多様性の尊重」の3つに注力していく計画だ。

 国の政策に関わる立場から、平野氏も「サステナブル社会を実現するには、根本的な考え方を変えなくてはならない」と訴える。平野氏は政府の「新しい資本主義実現会議」で、成長の定義を「経済資本」「人的資本」「自然資本」の3つから成るInclusive Wealthをベースにすることを提案している。GDPのような経済資本の増加に注力するのではなく、多様な資本の充実を通して豊かな社会を実現しようと呼び掛ける。現在のAIの用途は限定的だが、人的資本や自然資本の増加にAIを役立てることができれば、私たちの社会はもっと良くなる。これからの企業のAI活用では、もっと視野を広げることが不可欠だ。