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過去を見つめ直す顔と
将来を見通す顔
ローマ神話のヤヌス神[注1]は2つの顔を持ち合わせている。過去を見つめ直す顔と未来を見通す顔である。トップ・マネジメントもかくあらねばならない。常に過去に目配りを怠ることなく既存商品や事業プロセスを改良し、その一方で将来を見据えて、明日を切り開くイノベーションに備えなければならない。
このように視座のバランスを保つことは、経営課題のなかでも最も難しい類のものかもしれない。そのためには、既存の企業能力を生かしつつ、できるだけ多くの果実を得ながら、新たなチャンスを探らなければならないのだから──。
視座のバランスを図る術に長けている企業が少ないのも無理はない。たいていの成功企業は、既存の商品やサービスの改良は得意としているが、画期的なイノベーションは苦手である。
最近ではイーストマン・コダックとボーイングが、市場の変化によってかつての支配的地位から失墜してしまった。コダックの場合、アナログ写真はお手のものだったが、デジタル化の波に乗り遅れた。ボーイングは長年、旅客機市場のトップ企業だったが、防衛事業で苦戦し、最近ではエアバスとの競争でもつまずいている。
画期的な新商品開発と既存商品の継続的改善の両立に失敗するケースは実に多い。このことは興味深いテーマでもあるだけに、マネジメント研究の世界ではいまだ百家争鳴である。実際、経営学者たちは何十年にもわたって、この謎の説明や対策として、さまざまな説を立ててきた。
たとえば、伝統的な企業は新規分野を探るための柔軟性に乏しく、処方箋はないと説く向きもあった。また、巨大企業はベンチャー・キャピタル方式を採用して新分野に取り組み、既存事業は従来どおり推し進めるべきと提唱する派もあった。
各部門のメンバーからなるクロス・ファンクショナル・チームが、画期的なブレークスルーを生み出すカギだと言う学者もいた。さらに、一企業が適宜、組織体制を変更し、ある時には新規事業を開発し、またある時には既存事業の深耕に注力すると唱える一派もいた。
我々は最近、これらをはじめとする諸説について検証を試みた。その方法として、実例を綿密に観察し、まったく新しい商品やサービスをどのように開発しているのかを調査した。新規事業に成功したのか、それによって既存事業は損なわれなかったのか、どのような組織構造や経営手法を用いたのか、何が有効で何が無効だったのかなどである。