トヨタはなぜ「幸せを量産する」というミッションを掲げたのか
では、顧客の期待はどう変化しているのだろうか。その一端について安田氏は、「従来のマーケティングでは、製品や企業の歴史、ブランド、価格などを訴求するのが一般的でしたが、コロナ禍によって、生活者はそうした要素に魅力を感じなくなりつつあります」と説明する。そして、「サステナビリティをはじめとした社会的ニーズの変化にいかにスピーディに対応し、従業員を含むステークホルダーに寄り添った事業活動を行っているかという企業姿勢や“立ち居振る舞い”を重視するようになっています」と続ける。
今回の調査では、DXへの取り組みで成果を上げている企業ほど、システム導入や既存事業でのデータ活用に留まらず、事業変革や新規事業開発に積極的に取り組んでいること、さらに、企業としての明確なパーパスやミッションを制定し、それに沿ってDXを実践していることも明らかになった。
生活者の価値観や企業への期待は時代とともに常に変化するものであり、それに対応するための事業変革は終わりがなく、かつ前例のない取り組みだ。「だからこそ、縦割りになった組織の壁を超えて全社員が共有できるパーパスやミッションが重要であり、それらが変革活動としっかりリンクしていることが、事業変革には欠かせないのです」と安田氏は断言する。
たとえばトヨタ自動車は2020年、同社のぶれない軸を明文化した「トヨタフィロソフィー」を制定、「幸せを量産する」というミッションを掲げた。人々の幸せをいかに増やせるかというミッションを重視することで、同社が提供する顧客価値や社会価値を最大化しようとしているのだ。