倫理的な従業員を育てる

 人は社会に出る時点で、すでに完成された道徳的な人格を持っているわけではない。従業員が入社後に自分のスキルや能力を育む(あるいはそれを怠る)のと同様に、時間をかけることで、程度の差こそあれ倫理的な人間へと成長できる。

 しかし、多くの企業は、従業員の道徳心の育成を長期的な視点で考えておらず、倫理研修は入社時に一度だけ行うイベントにすぎない状態だ。その後、倫理観を醸成するとしても、行動規範を定めたり、内部通報ホットラインを設置したりする程度である。このような措置は、特定の非倫理的行為を抑制できるかもしれないが、従業員が道徳的な人間として成長するのに役立つとは限らない。

 倫理的学習は、生涯にわたって行われるものであり、やってよいことと悪いことを丸暗記するようなものではない。神経科学の研究によると、人は道徳的課題に直面した時、プロトタイプ、つまりメンタルモデルを拠り所にするという。道徳的な人間に成長するためには、経験を積むごとにこれらのプロトタイプをアップデートさせていく必要がある。