サプライチェーンのグローバル化やサイバー攻撃、ESG(環境、社会、ガバナンス)に関する要求の多様化などにより、企業が「想定外の危機」に直面するケースが増えている。クライシス(突発的な危機)の発生源は企業活動のあらゆる領域に潜在しており、それが顕在化した場合、リスク担当役員だけでは対処し切れない。平時のリスクマネジメントとは大きく異なるクライシスマネジメントの要諦について、ボストン コンサルティング グループの3人のスペシャリストに聞く。

平時のリスク管理では突発的な危機に対応できない

 クライシス発生による企業価値毀損の速度は、インターネットやSNSの普及によって格段に速まっている。

 「従来、企業同士の問題であれば当事者間の合意で収束することもありましたが、昨今では、外部に漏れるとたちまちSNSなどで拡散され、世論の納得を得られないと収束できなくなる事態に陥ってしまいます。品質不正にしろ、社会倫理に関わる問題にしろ、無数のステークホルダーにていねいに説明しなければなりません」と語るのは、ボストン コンサルティング グループ(BCG)の内田康介氏だ。

 世論の反発を鎮めるために、事態沈静化の前に経営トップが辞任するといったケースも見られるが、「それで事態が収束するとは限りません。むしろ対応を誤ると、外部からの批判は長引き、後追いの説明で再炎上する可能性もあります。その結果、企業価値がますます毀損するという悪循環に陥るおそれもあります」と内田氏は指摘する。

 では、そうした悪循環を避けるにはどうすればいいのか。

 「多くの企業は、事前に準備されたBCP(事業継続計画)やリスクマネジメントのプロセスに当てはめて事態を乗り切ろうと考えますが、それでは不十分です。有事に対処するには、平時のリスクマネジメントとは発想もプロセスも異なる『クライシスマネジメント』が必要です」。田中玲氏はそう説明する。

 リスクマネジメントは、一定の予測や制御が可能なリスクへの対応策である。にもかかわらず、それを想定外の突発的なクライシスへの対処に当てはめようとすると、柔軟な対応を妨げ、事態を悪化させる危険性がある。

 「多くの場合、発生したクライシスは企業関係者にとって未経験かつ事態の見通しが立たない状態なので、そもそもどんなアジェンダを設定すべきかわからず、ステークホルダーが納得できる対応策をタイミングよく打ち出せないことが、収束をさらに遅らせます。しかも、さまざまなステークホルダーから同時多発的に要求が押し寄せるので、つい場当たり的な対応となって相手の怒りを買い、ますます要求事項が増えてしまうのです」(田中玲氏)