発生から100時間の「緊急対応初動」が最も重要
クライシスが発生すると、どのような事態に陥るのだろうか。田中基興氏は、実際のクライシス対応支援の経験に基づき、起こりうる事態をストーリー仕立てで次のように説明する。
あるメーカーは、自主的な品質監査で現場の不正が発覚し、監督官庁の指示で事実を公表したところ、そこからとめどもない負の連鎖が始まった。
このメーカーは、多くの産業で使用されるさまざまな部材を製造・供給しており、これらの納入先から、「リコールを行った場合、多額の損害を補償できるのか」などと厳しく追及された。
しかも、追及を受けている間にも新たな品質問題が次々と発覚。被害が及ぶ可能性がある企業がどんどん増え続け、金融機関や仕入先には信用不安が広がる事態となった。情報を整理できていない段階で記者会見を開いたため、どこまで影響が及ぶのか、消費者にはどの程度関わりがあるのかといった質問に答えられない。
さらに、同社の部材は海外の重要な産業でも使用されており、外国の司法機関からも状況説明の指示を受けたが、平時と同じチームには専門知識がなく対応できなかった。
「問題の全体像を把握できないうちに、ステークホルダーからの要求がどんどん広がると、何からどう手をつけたらいいのか、完全に方向を見失ってしまうのです」(田中基興氏)
このような事態を避けるポイントとして、内田氏は「クライシスを収束させるには、問題が発覚してから100時間の『緊急対応初動』が何より重要です。この限られた時間の中で、速やかに収束への見取り図を作成し、情報の出入りをコントロールして、社内外とのコミュニケーションプランを迅速に作成・運用する必要があります」とアドバイスする。
初動の段階では、まだ断片的な情報しか集まらないものだが、「入手した情報をもとにその時点で最善の判断を下し、新たな情報が届いたら、それに合わせて軌道修正するという機敏な対応が求められます。リスクマネジメントはPDCAを回しながら一歩ずつ進めるのがセオリーですが、緊急を要するクライシスへの初動対応では、米国海兵隊の行動原則として知られるOODA(観察〈情報収集〉、状況判断、意思決定、行動)ループを回しながら、スピード感を持って対処していく必要があります」と内田氏は語る。
緊急対応初動で火種を抑えたら、あらためて危機対応本部を設け、ミスのない解決・対応を進めると同時に、危機の真因究明を行う。さらに危機が収束した後は、再発することがないように体質改善を図る(図表参照)。これが危機発生時の要諦である。