社会課題をビジネスで解決していくCSV (Creating Shared Value:共通価値の創造)は、コンセプトとしては市民権を得てきたが、実現と継続的な発展をさせていくのは難しい。そのような中で、「日本版Smart Societyプロジェクト」が始動している。第1弾として、「気象災害」をテーマにデジタルツインを活用した防災訓練のフィジビリティスタディも実施されている。

CSVによるスマートソサエティの実現を目指すNTTコミュニケーションズの上村芳徳氏と赤松寛夫氏、そしてCSVによるイノベーションを推進し、スマートソサエティのコンセプトに共感するモニター デロイトの井上発人氏に話を聞いた。

平時では思いもよらないニーズや行動パターンを
可視化

――「デジタル防災訓練」というのは、非常にユニークで興味深い取り組みです。これに取り組むことになった背景について聞かせてください。

上村芳徳
NTTコミュニケーションズ株式会社
イノベーションセンター
プロデュース部門主査

上村 「デジタル防災訓練」とは、実際の街と水害の発生状況をデジタル空間でリアルに再現し、市民に災害発生前後の状況を疑似体験してもらうことで、避難行動の可視化、防災意識の向上、安全に避難できる施策の検討などに役立てることを目的としたものです。

 これは、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)で、産学官連携によるCSVで日本の社会課題を解決することを目指して、2020年に立ち上げた「日本版Smart Societyプロジェクト」の最初の取り組みです。

 このプロジェクトでは、社会をよりよいものとするために、オープンかつセキュアな「参加型デジタルツインシミュレーションプラットフォーム」を社会実装し、顕在化していないニーズ・行動パターンの可視化や、意思決定・合意形成への活用を通して、企業や行政といった共創パートナーによる新たなサービス開発を促進することなどを目指しています。

 私と赤松が所属するNTT Com イノベーションセンターでは、最終的なプラットフォームの活用とコンセプト検証を兼ね、第1弾として、社会的、経済的ダメージの大きい気象災害をテーマとして「デジタル防災訓練」という参加型シミュレーションを開発しております。

――「顕在化していないニーズや行動パターンを可視化する」ということですが、具体的には、どのようなイメージでしょうか。

上村 社会にはSDGs(持続可能な開発目標)をはじめとするさまざまな課題があります。人々の価値観や立場、状況が多様化し続ける社会においては、課題そのものは明確でも企業や行政が最適解を見出すことが難しい課題もあります。そのような課題に対しては、ニーズや行動パターンを可視化することで、結果としてより多くの解決方法が提供されると考えています。気象災害も最適解の設定が困難な一例だと考えています。

 減災・防災のためには、事前の十分な備えや、速やかな復旧が必要であることは誰もがわかっています。しかし、災害は突発的かつ非日常的な出来事なので、必ずしも合理的な判断や行動ができるとは限りません。そうした、平時では表出しにくいニーズや行動パターンの出現を、仮想空間上の疑似体験を通じて可視化するわけです。

 出現したニーズや行動パターンを詳細に分析し、専門家らのアドバイスなども得ることで、防災・減災のための新たな施策やサービスづくりに役立てることができます。課題を解決する新しいビジネスの創造にも結びつくはずです。

井上 そもそもこのプロジェクトは、さまざまな社会課題について、市民がどのようなとらえ方をしているのかを可視化しようというのが出発点でした。SNSなどの発展によって、世の中ではいろいろな意見が発信されているように見えますが、サイレントマジョリティといわれる、積極的には発信しない層の本音は見えにくいところがあります。それを可視化することで、現状の施策やサービスと、市民が本当に求める施策やサービスのギャップを埋められるのではないかと考えたのです。

上村 災害には、自助・公助・共助をバランスよく組み合わせて対処することが大切だといわれますが、過去のケースでは、自助が7、公助が2、共助が1程度の割合となっており、いざという場面では個人の自助努力に依存しているのが実情です。可視化されたニーズをもとに施策やサービスを見直せば、共助の割合をもっと高められるのではないかと思います。