実際の街並みや災害の進行状況を
デジタルでリアルに再現

――2022年から開始する実証実験に先駆けて、「デジタル防災訓練」のフィジビリティスタディを実施したそうですね。

赤松 水害ハイリスク地域に指定されている「東京江東5区」の中でも、災害に対する深刻度が高く、真に迫ったニーズがあると予期される地域を「デジタル防災訓練」のシミュレーション対象エリアとしました。

赤松寛夫
NTTコミュニケーションズ株式会社
イノベーションセンター
プロデュース部門

 国が提供するオープンな都市空間データや独自のデータをもとに、行動の際の目印となる店舗や看板まで3D CG(立体コンピュータグラフィックス)によってリアルに再現したデジタルツインの仮想空間をつくり上げました。参加する市民はこの空間の中で、発災前後のシチュエーションをアバター(分身)を通じて体験しながら、自身の行動をシミュレートすることができます。

 具体的には、PCの画面上で、いつも暮らしている生活空間とほぼ同じ仮想空間を歩いたり、立ち止まったりしてもらい、街の様子やスマートフォンのニュース、近くを流れる川の水位などを見ながら、次の行動を判断していきます。

――仮想空間の設定においては、どのような工夫を凝らしたのでしょうか。

赤松 現実の水害発生に近い状況を再現するため、近年最も被害が大きかった2019年の台風19号(令和元年東日本台風)のケースを参考にしながら、台風上陸が予報されてから発災時までの状況を時系列で体験できるシナリオをつくりました。

 実際の災害対策は、発災の72時間前に行動を開始するのが望ましいといわれていますが、その72時間前から時間帯ごとの環境変化を再現し、自宅のテレビやスマホに表示される災害情報も更新されていくようにしました。

 参加者は、その時々の状況に応じて、「自宅に残るか」「避難所に行くか」「広域避難をするか」といった選択をできるわけですが、その選択によって、人それぞれのニーズや行動パターンが見えてきます。災害時の行動には、行政などが推奨するものがありますが、その推奨行動とシミュレーション上における行動とのギャップを可視化することによって、現状の施策やサービスに足りていないものが明らかになると考えています。

井上 実際に住んでいる街で、本当に災害が起こっているかのような没入感を体験してもらうため、街並みや状況の変化については、リアリティを追求しています。国が提供する都市空間データをそのまま利用するだけでなく、プロジェクトメンバーが現地に直接足を運んで肌感覚に基づいた肉付けを行っていますし、聞こえてくる雨の音も、屋外にいる時は大きく、屋内にいる時は小さくするなど、細部にもこだわっています。そこまで徹底することで、真に迫った判断や行動が再現されると考えたからです。

意識変化や行動変容に一定の効果

――フィジビリティスタディには、どのような人たちが参加したのですか。

上村 2022年の実証実験は、属性やライフスタイルの異なるさまざまな方から、それぞれの考え方や行動が引き出せるようなものにしたいと思っています。

 その準備段階として、フィジビリティスタディでは、PTAやマンション管理組合の方々、学生、会社員など、複数の属性を持つ方々に参加していただきました。年齢も20〜80代と幅広くなっています。

――フィジビリティスタディの結果については、参加者とも共有されたのですか。

上村 「デジタル防災訓練」は、参加者の本音や行動パターンをデータとして収集・分析するだけでなく、表れた結果を参加者にフィードバックすることで、意識変化や行動変容に役立てていただくことも目的としています。

 将来的には、そうしたフィードバックの仕組みをデジタル化することも視野に入れてプラットフォームの開発を進めていますが、フィジビリティスタディでは、アンケートやインタビュー、ワークショップなどを通じて参加者の声を共有しました。

 ワークショップでは、シミュレーション上での体験を通じて何に気づいたのか、事前・事後で災害に対する意識や考え方がどのように変化したのかといったことを、語り合ってもらいました。

赤松 ワークショップでは、ほかの人の体験を通じて、各々が「実際に災害が起こったら、もっと適切な行動があったかもしれない」という気づきがあったのではないかと思います。一方で、避難に間に合わなかった参加者は、どんなことを考えて結果としては最適でない行動を取ってしまったのかということは、発言者が明白なワークショップでは、なかなか明かしにくいものです。

 そこで、心理的安全性を担保するため、ほかの参加者には結果が公開されないアンケートも併せて実施したところ、さまざまな本音を引き出すことができました。今後の実証実験でも、こうした調査方法の使い分けを行いながら、多面的なデータを収集・分析したいと思っています。