政府の「デジタル田園都市国家構想」によって、日本のデジタル基盤整備が本格的に動き出そうとしている。カギを握るのは5G(第5世代移動通信システム)の普及だが、「整備された5Gインフラの上で、いかに新たな事業や仕組みを創出するかは、民間の力に委ねられている」と語るのは、慶應義塾大学大学院特任准教授のクロサカタツヤ氏だ。通信・メディア産業のコンサルティングも手がけるクロサカ氏に、日本のデジタル基盤の整備と活用における課題について聞いた。

「何ができるか」ではなく、
「何をやりたいか」を考える

──岸田政権は、「デジタル田園都市国家構想」の下、5Gをはじめとするデジタル基盤の整備、デジタル人材の育成、社会へのデジタル実装を推進しようとしています。この動きと、経済や社会へのインパクトをどのように見ていますか。

クロサカ(以下略) デジタル田園都市国家構想は、時宜を得た政策だと思います。個人的には、もう少し早く始めてもよかったのではないかと感じる部分もありますが。

 なぜ、「もう少し早ければ」と感じるのかと言えば、カギを握る5Gの商用化はすでに2020年から始まっているからです。5Gがビジネスや生活にもたらすパラダイムシフトの大きさが、あまりよく認識されてこなかったことが、政策対応が遅れた原因の一つかもしれません。

慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科 特任准教授
企(くわだて)代表取締役
クロサカタツヤ氏
三菱総合研究所を経て、2008年株式会社企(くわだて)を設立し、代表取締役就任。通信・放送セクターの経営戦略や事業開発などのコンサルティングを行うほか、総務省、経済産業省、OECD(経済協力開発機構)などの政府委員を務め、政策立案を支援。2016年から慶應義塾大学大学院特任准教授を兼務。著書に『5Gでビジネスはどう変わるのか』(日経BP、2019年)など。

 4Gまでのデジタル体験と、5Gではパラダイムがまったく異なります。わかりやすく言えば、4GまでのサイバースペースはPCやスマートフォンの画面の中だけで表現されました。我々は、視覚でしかその世界を体験できなかったわけです。

 しかし、今後はあらゆるモノやサービスがセンサーやIoTでつながり、五感のすべてでサイバースペースが体験できるようになります。4Gでも、そうした世界を創造できないわけではありませんが、お金と手間がかかるので現実的ではありませんでした。

 それが5Gの環境下であれば比較的容易に実現可能となるのですから、国として基盤整備に取り組むのは当然の流れだったといえます。

 とはいえ、国による基盤整備は、あくまでもエンジンをかけるためのスターターにすぎません。整備された基盤の上で、いかに新しいサービスや体験を提供できるかは、民間の力にかかっています。