「売上げを伸ばす」ための
デジタル活用を
──日本の製造業の間では、長年強みとしてきたモノづくりとIoTを融合させることが、新たな国際競争力に結び付くのではないかという期待も強いようです。
まず、「日本のモノづくりは世界一」という認識から、そろそろ脱却すべきだと思います。中国や韓国のモノづくりはかなり進んでいて、コストパフォーマンスの面で日本が太刀打ちできない部分もすでにあります。
私は、5Gは「空間のDX」だと言っているのですが、これからの時代、モノはあらゆるタッチポイントの一つにすぎなくなり、その前後のサービスも含めた生活空間やビジネス空間をいかにデザインするかが重要になってきます。モノづくりだけに執着するのではなく、人々が暮らし、働く空間を広くとらえながらビジネスを着想すべきだと思います。
──企業がデジタルを活用したビジネス変革を進めるうえで、重要なポイントになりそうですね。
これまでの日本企業のデジタル活用は、コスト削減や効率化に重きが置かれてきました。人口減少によって国内市場が縮小する中で、「売上げは伸ばせない」という観念に縛られてしまっているからです。私は、これも「デフレ病」の一つだと思っています。
しかし、売上げが伸びなければ市場は拡大しないし、日本経済も成長しません。コスト削減のためのデジタル化という発想を捨て、トップライン(売上げ)を伸ばすためのデジタル活用を考えるべきではないでしょうか。
たとえば、アマゾン・ドットコムが米国で展開している小型店舗「アマゾン・ゴー」は、多数のカメラやセンサーを店内に設置しており、来店客がゲートを通ると自動的に買い物の決済が完了します。日本ではレジなし店舗と呼ばれることが多く、レジ要員を不要にし、コストを削減するためだとする見方がありますが、それは正しくありません。
カメラやセンサーを多数装備しているので、むしろ一般の店舗より投資コストはかかっています。しかし、商品を手に取って店を出るだけで買い物を済ませられるというまったく新しい買い物体験を提供することにより、単位面積当たりの売上高は一般店舗よりもかなり高いといわれています。まさにトップラインを伸ばすためにデジタルを活用しているのです。
そこで大切なのは、繰り返しになりますが、「何をしたいのか」というビジョンを明確に描くことです。最初に技術ありきではなく、目的ありきで、それを実現する仕組みをどうやったらつくれるかを考えること。それが、競争力を高めるための重要なカギです。
5Gを導入するかどうかも、あくまで手段の選択にすぎません。ただし、4Gのライフサイクルはいずれ終わりを迎えますし、その時期は早ければ3~4年でやってくるはずなので、投資を決断するなら早いほうがいいかもしれません。