──IoTの社会実装に関しては、「インダストリー4.0」の欧州や「インダストリアルインターネット」の米国のほうが一歩先んじているように感じます。日本の現状をどのようにご覧になっていますか。

 たしかに欧米や中国のほうが、大規模なIoT実装が進んでいる部分はあると思います。世界中のサプライチェーンの稼働状況を24時間監視・操作し、生産や物流を最適化するといった点については、海外のほうが積極的に取り組んでいます。

 日本は、メーカーとサプライヤーの“上下関係”が根強いので、上がやると言わなければサプライヤー側がIoTを実装するモチベーションが働きにくい部分があります。海外では自主的にやらないと取引が途絶えたり、新規取引ができなかったりするので、実装せざるをえないという実情もあります。

 サプライチェーンの最適化以外にも、生産しているモノに化学物質が含まれていないか、過重労働が強いられていないかといったESG(環境、社会、ガバナンス)対応を目的にIoTを導入する動きが増えており、その波は日本でも少しずつ広がっています。時間差こそあれ、日本でもIoTの実装は着実に進んでいくでしょう。デジタル田園都市国家構想は、その基盤づくりのための推進装置と位置付けることができます。

──生産やサービスの現場にIoTを実装するため、パブリックな5Gネットワークではなく、自社だけで使用するローカル5Gの導入を検討する企業が増えつつあります。

 通信キャリアが提供する5Gネットワークでは、自分たちが「やりたい」と思うことが十分できないと考える企業がローカル5G導入に動き始めています。IoTデバイス側が情報を処理するエッジコンピューティングの進歩とともに、ローカル5Gの需要は高まっています。

 大切なのは、パブリックにしろローカルにしろ5Gを導入する前に、自分たちは「何をやりたいのか」を突き詰めて考えることです。やりたいことを実現するために5Gが欠かせないのであればすぐに導入すればいいし、5Gでなくても実現できるのであれば、導入しないという経営判断もありうるわけです。

──「5Gで何ができるか」ではなく、「何をするために5Gを導入するのか」という発想の転換が必要ということですね。

 たとえば、あるホテルチェーンは、館内の浴場やコインランドリーの混雑状況を部屋のテレビでリアルタイムに確認できるサービスを提供しています。

 何気ないサービスに思われるかもしれませんが、これによって宿泊客が滞在中の時間を効率よく使えるだけでなく、客の行動を分散させることでスタッフの業務も平準化できるわけです。このホテルに宿泊した時に、「これこそがIoTのユースケースだ」と思いました。「何をしたいか」ということから仕組みのあり方を考え、IoTを採り入れた典型的な例だといえます。