デジタルテクノロジーの進化を追い求めるあまり、従来型の機能価値の提供に軸足を置いたまま、表層的な顧客体験の刷新に留まる企業が散見される。今日の顧客が問うているのは、製品・サービスの機能以前に企業の姿勢や存在意義そのものである。パーパスに立脚し、社会課題に向き合う顧客体験の変革とはどうあるべきなのだろうか。

電通デジタル 小浪宏信氏(左)、田川絵理氏

コロナ禍で様変わりした
製品・ブランドの選択基準

 3年目に突入したコロナ禍は、社会や暮らしの中に潜むフラストレーションを高め続けている。

「人との距離を置き、当たり前だった日々の暮らしが制限される一方、コロナ禍からの出口は見えません。社会や暮らしへの不安や不満、不便、不自由、不和などさまざまな“不”が一気に表出したこの3年で、生活者が企業に求める価値にも変化が生じています」。電通デジタルの田川絵理氏はそう語る。

 生活者の身近な“不”の集合体が社会課題であり、それを真剣に解消しようとしているかどうか、企業の姿勢や振る舞いを生活者は慎重に見極めたうえで、製品やサービスを選択するようになっている。

 実際、電通デジタルが2021年に実施した生活者調査でも、「社会や人々の暮らしの課題を解決しようとする姿勢の有無が、今後のブランド・製品選択の基準になる」と答えた人は、全体の7割強に上った。

 「コロナ禍によって、ますます多様化している社会課題に向き合い、迅速に解消しようとしている企業やブランドを支持する傾向が顕著になっており、それがブランド・製品の選択基準ともなっています」と田川氏は指摘する。社会課題に対する姿勢や振る舞いが選択基準となる中で、企業は提供する価値を抜本的に見直すことを迫られている。

 「従来は、便利さや使い心地といった製品・サービスの機能面で顧客体験を高める取り組みが中心でしたが、社会課題への向き合い方が重視されるようになった今日、企業としてのパーパスに基づいた、より包括的で骨太な取り組みが求められるようになっています。そうした変化に気づいた企業は、『パーパスドリブンなCX(顧客体験)変革』へと軸足を移しています」と同社の小浪宏信氏は述べる。