パーパスドリブンなCX変革とは、企業あるいはブランドとしての社会に対する存在意義をあらためて問い直し、それに立脚して製品・サービス、顧客接点などのあり方を再設計する、まさに包括的で骨太な取り組みである。
「そうした取り組みは、多くの先人たちが実践しています」と田川氏は言う。たとえば、日清食品ホールディングスの創業者である安藤百福氏は、戦後の食糧難の時代に、栄養失調をなくすという社会課題の解決を目指して、保存性と簡便性に優れた世界初の即席めんを開発した。現在の同社は、カロリーの過剰摂取や栄養の偏りといった健康リスクを解消するため「おいしい完全栄養食」の開発を目指している。

トランスフォーメーションリードルーム
エグゼクティブトランスフォーメーションディレクター
田川絵理氏
「時代とともに社会課題は移り変わりますが、その解決に挑み続ける姿勢や創業者精神の重要さを学ばされます。パーパスドリブンなCX変革によって、社会と顧客への提供価値、そして企業としての経済価値を追求し続けている『三方よし』の最たる例だと思います」(田川氏)
昨今は、デジタル・トランスフォーメーションの潮流に乗り遅れまいとするあまり、テクノロジー先行で製品・サービスの機能を変える、顧客接点を変えるといった機能面での刷新を目的とするプロジェクトが散見されるが、それでは、社会価値・顧客価値・経済価値の「三方よし」を実現する本質的なCX変革は達成できない。
そうした本質的なCX変革に取り組むうえでは、「生活者が日常的に感じている“不”の延長にある社会課題を細かい粒度でとらえ、自社固有のリソース(経営資源)や独自の強みを活かして解決すべき課題を特定すること。その変革によって、自社がどんな社会課題を解決し、社会に対してどのような存在意義を発揮できるのか、その実現のために真に必要なCXとは何かを考えることが重要です」(田川氏)。
パーパスを出発点としてサービスの実装まで支援
そうした「自社ならではの存在意義の発揮」を支援するためのツールとして、電通デジタルは「Social Pain Compass」(ソーシャルペインコンパス、SPC)というサービスを提供している。SNS上の膨大なソーシャルデータから浮かび上がってきたペインの文脈を読み解き、生活者が感じている“不”を「地球・自然」「社会」「人生」「暮らし」の4領域に分類。200個超のソーシャルペイン(社会不満)として可視化したものだ。