アメリカの医療制度は
なぜ行き詰まっているのか

 アメリカの医療制度は長年にわたって、コストと成果の両面で満足のいく実績を上げるに至っていない。州の管理が強い分野ならいざ知らず、自由競争市場でありながら、このような結果とは何たることだろうか。アメリカでは民間機関が医療の主な担い手となっており、世界でもほとんど類がないほど厳しい競争が展開されているはずなのだが──。

 健全な競争が実現していれば、業務プロセスや手法の改善が徹底的に推し進められ、その結果、コストが下がり、製品やサービスの質が着実に上向いていくはずである。

 イノベーションによって、より効果的な手法が生み出され、それが急速に普及していく。競争力の劣る企業は変革を迫られ、さもなければ市場からの退出を迫られる。より大きな価値が低価格で提供され、市場は拡大する。事実、コンピュータ、移動体通信、銀行ほか、健全な業界はみなこのような軌跡をたどってきた。

 ところが医療業界ではまったく事情が異なる。コストは節減努力をあざ笑うかのように上昇を続け、コスト増を正当化できるほど質が向上しているかというと、けっしてそうではない。それどころか医療サービスが切り詰められ、多くの患者が適正水準以下の医療しか受けられずにいる。そのうえ、避けられたはずの医療過誤が頻発しているのだ。

 医療機関や地域ごとにコストに大きな格差が存在しており、なぜこれほどの開きが生じるのか、理に叶った説明は難しい。ベスト・プラクティスが遅々として普及しないため、医療の質にもばらつきが見られる。臨床試験の結果が医療現場に広く浸透するまでには、平均で実に17年も要する。主な医療当事者たちは、イノベーションを成功への起爆剤どころか、障壁と見なしているありさまである。

 市場がうまく機能していれば、現在起きていることは総じておよそありえない事態である。人命や生活に直接関わる医療分野で、このような実態を見過ごせるものだろうか。

 我々の考えでは、アメリカの医療がこのような状況に陥ったのは、競争のあり方に起因している。とはいえ「州による介入を強めるべきだ」「州内の保険制度を統合して医療機関への支払い窓口を一本化すべきである」(つまり「シングル・ペイメント制度」を導入すべき)などと主張しているのではない。そんなことをすれば、事態をさらに悪化させるだけだろう。

 むしろ我々の主張はこうだ。競争による解決を図るべきである。医療分野の競争のあり方を改める必要があるのだ(囲み「アメリカ医療制度に関する報告書」を参照)。