勘と経験に頼る意思決定の弊害

 経営者は日々、製品や顧客、資源配分、従業員の給与などについて、自身の前提に基づき意思決定を下している。だが、その前提は、これまで徹底的に検討されたこともなく、ましてや異議を唱えられたこともない。失敗の理由を問われた経営者はよく、「私はずっとこのやり方で成功してきました。別の方法など考えたこともありません」と答えるものである。とはいえ、そうした慣行の根底にある考え方が間違っているうえに、自分たちを混乱させ、コストを引き上げていると疑いを持つ人々から示されると、リーダーたちは自身が正しいと思い込んでいた前提を体系的に検証する重要性を理解するのだ。

 2000年代初頭に、ホテルとカジノを経営するハラーズ・エンターテインメント(現シザーズ・エンターテインメント)でCOOだった、筆者の一人であるゲイリーの話を紹介しよう。ゲイリーは分析チームと協力して、マーケティングインセンティブに対する会社のアプローチを見直した。ハラーズのリーダーたちは当時、業界内のある常識を信じ切っていた。それは、宿泊料金の割引や食事券、小売店のクーポン券などの金銭的インセンティブが、ラスベガスを訪れる顧客の意思決定に大きく影響しており、このインセンティブを多く提供すれば、部屋を予約する可能性が高くなるということだった。

 ゲイリーのチームは、個々の施策を厳密にテストすることで、マーケティング費用の効率化に乗り出した。(経済学者として教育を受けたゲイリーは、業界の慣行であった、マーケティングプログラム全体の集合的な影響の測定ではなく、プログラムの各要素の漸進的な貢献を評価する重要性を理解していた)。そして、どういったインセンティブがどの程度、同社のホテルの宿泊を促すのか、数百回ものテストを繰り返した。その結果として、小売店での割引など一部のものは、ホテルの予約に影響がなく、廃止できるとわかった。さらに、その浮いた費用を効果的なインセンティブに、たとえば大幅な宿泊料金の割引などに振り向ければ、顧客の反応と利益の双方を高められる可能性もわかった。