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知識集約型企業はキャッシュを保有せよ
2000年、ニューヨークを本拠とする巨大製薬会社のファイザーは、ライバルのワーナー・ランバートを買収・合併した。連結でおよそ60億ドル近くのネット・キャッシュ(現金や預貯金と有価証券を合わせた流動性資産が負債を上回る状態)となった。
それは、売上高が300億ドルに届こうという企業にしては異例なほど、保守的な姿勢のように見えた。というのも、同社が販売している商品のなかには世界的なベストセラーになっている医薬品もいくつかあった。高コレステロール血症治療剤として爆発的に売れている〈リピトール〉だけでも、2001年の売上高は世界全体で70億ドルに達していた。
これほど堅調な売上げを誇る大企業であれば、ほとんどの場合、レバレッジを高めて、すなわち負債を増やして膨大な株主価値を創造できるだろう。一つには負債によって節税効果が得られるからであり、また手持ち資金が少ない経営者ならば、より賢明に資金を活用することが、市場でこれまでに立証されているからである。
たとえば、バンクオブアメリカを例に挙げよう。ほとんどの銀行と同じように、同行の資本構成は大きく負債に依存している。タックス・シールド(法人税節約額)の価値だけでも、同行の株式の時価総額である1200億ドルの約3分の1にも相当する。
では、この種の戦略はファイザーのような知識集約型の企業にとっても適切なのであろうか。
この疑問に答えるために、クレディ・スイス・ファースト・ボストンのティム・オプラーと私は、ファイザーと最も類似し、比較検討が可能な知識集約型の企業を対象に徹底的な調査を実施した。その結果、従来の定説とはかなり異なる状況が浮かび上がった。世界的に大成功を収めている最大手のテクノロジー企業、およびライフ・サイエンス事業を営む企業は、一貫してネット・キャッシュを高水準で維持していたのである。
ファイザー同様、株式市場はこのような企業の価値を、継続中の事業に由来する価値よりもはるかに高く評価していた。なぜなら、これらの企業が研究開発によって新商品を創造する能力を反映してプレミアムをつけているからである。
同時に、これもファイザー同様、このような企業の資産は非常にリスクが高いこともわかった。これはバランスシートの性格上、あいまいになりがちな事実である。たとえば、2001年のファイザーの株価変動率は、バンクオブアメリカのそれとほぼ同程度(30%)であった。ところがファイザーのレバレッジ率(負債対株主資本の割合)は負債が少なく0.3対1であるが、いっぽうバンクオブアメリカのそれは10対1に近かった。