遅々として進まない
ESGに対する理解
プライベートエクイティ(PE)ファームは1980年代に「乗っ取り屋」として悪名をとどろかせたが、現在では大半が、よりよい企業統治を通してポートフォリオ企業の業績を向上させようとしている。
PEファームのそもそものビジネスモデルは、コングロマリットの内部でほとんど見過ごされている事業や、経営の稚拙な非公開企業(機能不全に陥った同族会社など)の重点分野を絞り込んだり、監督を強化したりすることにより、価値を創造するというものである。ただしPE業界においては、ESG(環境、社会、ガバナンス)のうちGは当初から重んじられてきたものの、EとSはほとんど考慮されてこなかった。ポートフォリオ企業の長期的な存続の可能性や社会への幅広い影響を顧みずに、収益を追求することをよしとしてきたのである。
今日ではPE業界と社会にとって大きな機会が存在する。PEは金融業界のニッチ分野の枠をはるかに超えて、グローバル経済の主要プレーヤーとしての地位を手に入れた。2021年には運用資産額が6兆3000億ドル(ちなみに上場株式の時価総額は90兆ドル)、「ドライパウダー」(待機資金)が2兆ドルに迫っていた。これらの資産は2026年までには11兆ドルを超えると予測されている。全世界でおよそ1万のPEファームが、約4万に上るポートフォリオ企業の2000万人超の従業員を監督下に置いている。アポロ、ブラックストーン、カーライル、EQTパートナーズ、KKR、TPGのような最大手の一角は現在、みずから株式を公開しており、すべての公開企業と同じ圧力にさらされている。