松江 日本の変革を妨げているのは、内向きで部分最適なタコツボ社会、組織のタコツボ化にあり、その根底に宿っているのが“自前主義”です。宇宙開発戦略司令塔の成功例は、これからの日本に求められる“脱自前”のプロトタイプとして、宇宙以外の分野で新たな成長産業を生み出していく際にも応用できる話だと思います。

白坂 私の研究分野に照らせば、脱自前とはモジュラー化といえます。大量生産・大量消費の時代は、年齢や性別などで消費者を一くくりにして、同じものを提供していました。しかし、デジタルやデータを使い、他社のモジュールを組み合わせることで、一人ひとりの需要に対してより柔軟に、最適なサービスや価値を提供できるようになります。全体を俯瞰してとらえると、共通なところはモジュールとして活用できるのです。なので、横串でとらえることが重要となります。

 すべてを自前で持つことは不可能なので、横串としてのレイヤー構造とモジュラー化により、いかに自由自在に組み合わせて、ユーザーに最適なものを提供できるかが問われるようになります。

白坂成功慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科 教授

東京大学大学院修士課程修了(航空宇宙工学)、慶應義塾大学大学院後期博士課程修了(システムエンジニアリング学)。大学院修了後、三菱電機にて15年間、宇宙開発に従事。「こうのとり」などの開発に参画。技術・社会融合システムのイノベーション創出方法論などの研究に取り組む。2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科非常勤准教授。2010年より同准教授、2017年より同教授。2018年宇宙ベンチャーのSynspectiveを共同創業。内閣府宇宙政策委員会委員などの公職も務める。

需要起点で新しい産業をつくらないと、
人口減少を乗り越えられない

白坂 私が宇宙に関わり始めた頃、正直言って、宇宙分野はまだ産業として成立していませんでした。たまたまこの10年間、私たちは宇宙分野が脱自前によって「産業化」していく過程を経験したのかなと思います。

松江 私たちはいまデジタル化、グローバル化、人口減少という3つの構造変化に直面しています。なかでも人口減少は、日本が他の先進国に先立って直面している構造変化であり、需要不足・供給過剰が常態化しています。

 需要起点で産業構造を組み換え、新たな産業をつくっていかないと国内市場が広がらないし、海外進出のシナリオも描けません。宇宙は白紙から成長戦略を立てることで、成長産業化できました。同じように既存産業をどう成長産業へと転換できるかが、日本が次のステージに上がるチャレンジになると思います。

白坂 宇宙開発はもともと科学技術の研究が主体であり、民間需要はわずかしかありませんでした。それだけに、ゼロから需要を見つけ、「どんな価値を創造していくべきか」という問いを立てやすかったといえます。

 テクノロジーの進化が遅い時は、それを理解していなくても、新しい価値をつくり出しやすかったのですが、いまはAI(人工知能)やメタバース、NFT(非代替性トークン)といった新しいテクノロジーを理解しているかどうかで、提案できる価値が大きく異なります。

 価値創造は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に置き換えて説明できます。デジタルなどの新たな手段で新たな目的を実現するには、いろいろな手段をうまく組み合わせる仕組み、つまりアーキテクチャーを変革しなくてはなりません。この新たな目的設定とそれにともなうアーキテクチャー変革がトランスフォーメーションであり、目的と手段をうまくカップリングして、ユーザー起点で仕組みをデザインできるのが、DX人材と定義できます。

 既存の事業や技術に精通するほど、無意識の認知バイアスが邪魔をして新しい発想を退けてしまいます。松江さんは先ほど、タコツボ化と自前主義の弊害について指摘されましたが、異なる認知バイアスを持った人が組織の中に入れば相互作用が生まれ、既存の目的や価値を超える仕組みを構築することができます。

松江 新たな手段によって、新たな目的を実現する仕組みをつくるには、ほかにもいくつか大事なことがあると思います。一つはインセンティブ設計です。ほとんどの組織では既存の評価軸で、人事評価されますが、新しいチャレンジをする人たちは別の軸で評価するとか、異なるキャリアパスをつくるなど、新たなインセンティブ設計が必要です。

 もう一つは、事業創造の「型」をつかむことです。日本の組織は現場主導で、需要家やユーザーに近い立場の人たちが高い能力を持って、仕事を動かしていますが、現場主導の組織は10年先を見据えて新たな事業を構想する力が弱い。

 ビジネススクールの学生やクライアント企業が短期集中で事業創造にチャレンジする際、何か一つ成功体験の「型」をつかむと大きな力を発揮します。

白坂 「型」をフレームワークと言い換えていいと思いますが、私が所属するシステムデザイン・マネジメント研究科では、物事を構造化・可視化する「システム思考」と、人の感性を重視して試行錯誤しながら新しいものを創造する「デザイン思考」を組み合わせた課題解決のフレームワークを開発しています。

 米国のスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)と共同でつくり上げた授業をその後、日本流にアレンジし、日本の大学院生や企業の人たちに合わせたフレームワークをつくり上げました。「型」に沿って議論を進めていくと、従来は噛み合っていなかった点が可視化され、チームとしての課題解決能力が格段に高まりました。