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「ドル危機」の真の原因
アメリカが国際経済において不動の地位を誇っているように見えたのは、いまからほんの2年前のことである。当時、斯界の権威であるジェフリー・クロウサー卿──『ロンドン・エコノミスト』誌の編集長を引退したばかりである──をして、「ドル不足」を「世界経済学において、将来的にも続くであろう唯一の不変的事実」と言わしめた。
前途に潜む危険について、あえて警鐘を鳴らした者も少数ながらいたが、「いたずらに不安を煽っている」と鼻であしらわれた[注1]。しかし今日、ドル不足に代わって「ドル危機」が国際経済の中心問題になっていることに疑いを差し挟む余地などあるだろうか[注2]。
言うまでもなく、ドル危機の根底にある問題はアメリカの貿易収支である。貿易外支出は、絶対的にも相対的にも増加してはいない。例外は短期的な「変動資本」の動きだが、これは国際収支の原因というより、結果にすぎない。
真の問題は明らかに、輸入の極端な増加ではなく、輸出の立ち後れである。いくつか事実を検討してみよう。
・1953年以来、輸入量は年率5%で増加している。なお、53年は第2次世界大戦後の復興がほぼ終わり、朝鮮戦争の影響が落ち着いたという意味で、戦後になって最初の「普通の」年であったといえる。だが、アメリカや他の先進諸国の経験に照らせば、予想したほど急激な増加というわけではない。工業原料と工業資材の輸入量(アメリカの輸入量全体の3分の2を占める)は、GNP成長率の1.5~2倍のスピードで増加する傾向を見せてきた。
・対照的に輸出は、GNP同様、緩やかな伸びにとどまっており、53年から59年にかけての平均成長率は3.5~4%だった。とはいえ同時期、他の自由世界諸国は年率6~7%の勢いで経済成長を遂げていた。
実のところ、このような数字は輸出の衰退を正しく反映したものではない。というのもこの時期、「貿易条件」はアメリカに有利な方向へと大きく変化していたからである。輸入の3分の2を占める工業原料や工業資材の価格は下落傾向にあった。この傾向はその後、アメリカの貿易収支が急速に悪化した時期に特に顕著となった。
それに対し、アメリカからの輸出品の3分の2を占める工業製品の価格は、59年を通じて強い上昇傾向にあった。おそらく輸出量という点では、53年よりも59年のほうが少なかったのではあるまいか。輸出収入が増加したのは、ひとえに製品価格が上昇したためである。
しかし、アメリカの原材料や工業資材の輸入量は増加した。その量は、もし価格が下落せず53年当時の水準であったとしたら、あるいはその推移が製品価格の上昇に並行する程度だったとしても、アメリカの実際の購入能力を超えるほどだった。