たとえば、大手食品メーカーでは経営トップや本部長クラスが社員との直接対話で価値創造ストーリーへの理解を深め、価値創造に向けた個人目標発表会を開くなどして自分事化を図っている。社員による価値創造の実践は、起業家育成プログラムやベンチャー協業プログラムなどを通じて支援、ストーリーが達成された場合は表彰する。こうした一連の施策がエンゲージメント向上につながっているかどうかを定期的に調査し、成果を測定している。
データでつなぎ
非財務と財務の関係を解明する
経営戦略と人材戦略を結ぶためには、人材マネジメントの高度化が必須であり、それを実現するのが「データドリブンなHRへの変革」である。
第一歩となるのは、紙ベースの業務や労働集約的な業務をデジタルを活用して効率化・省力化することだ。それに伴って、人事部門の組織と役割を再定義し、戦略的な人事機能へ人的資源を再配分する。
この土台が整ったら、①経営戦略の実現に向けた人材戦略ストーリーを描く、②人材関連データの所在確認と業務プロセスの可視化、③KPI(重要業績評価指標)を設定してスモールスタート、というステップでデータドリブンなHRの取り組みに着手する。
「すでに行っている人事施策と財務指標の関係をデータで確認してみるなど、着手しやすいところから始めるのがいいでしょう」と小野氏は語る。
リッジラインズが実際に行った分析では、組織長の学習時間やDXの理解度は営業利益の伸び率と正の相関があり、ストレスの度合いや会社主導の人事異動は負の相関があることがわかった。このようにデータでつなぐことによって非財務指標と財務指標の相関関係を確認することができ、現場への聞き取り調査などを組み合わせれば、因果関係を解き明かすことも可能になる。
人材マネジメントの高度化という点では、事業計画と人員計画のダイナミックな連動も、多くの企業が抱える共通の課題といえる。
中期事業計画に基づく予実(予算・実績)管理を年度ごと、四半期ごとにエクセルで作成している企業は多いだろうが、それを月次ベースなどの短サイクルで見直したり、人件費予算や採用の予実管理と連動させたりするのは容易ではない。結局は、機動的な修正ができず、事業環境の変化に追い付けないという企業も少なくないはずだ。
「企業のあらゆる計画業務をサポートするAnaplanなど、いまは豊富なソリューションを活用できます。エクセルのバケツリレーを脱却し、クラウドソリューションで一元的に管理することを当社は推奨しています」(小野氏)