いわゆる“マーケティング・コンセプト”――企業が成功するためには、製品志向ではなく顧客志向でなければならない、企業は製品やサービスを売るものではなくて顧客(の信用)を買うものでなければならない、という考え方は現在ではすっかり定着してしまっている。マーケティングとは、人びとがあなたと取引をしたくなるように、あなたの競争企業よりもあなたとの取引を選ぶように、必要なすべてを実行することなのである。何を製造するか、何を売るべきかをあげつらうのではなくて、経営者は、人びとがどんなものを、なぜ買いたがっているのかを見抜かなければならない。

 企業のあり方をこのように考えなおすと、その成果はたいへんなものになる。経営戦略が根本から変わり、組織が全面的に見なおされ、戦術決定のやり方がひじょうに芸のこまかなものになってくる。

 この発想転換に踏みきった会社は、総じて、実施の段階で苦しみもがいている。しかし、ひとたび決断をし、正しく実行し、その方針を持ちつづけた企業は、歳月を重ねるにつれて、まちがいなく、すばらしい、ときには劇的ともいえる成果を手にしてきた。マーケティングは魔法になりうるのだ。