全米小売業協会主催「NRF 2023:Retail Big Show」でのパネルディスカッションの後、ニューヨークのファーストリテイリング・イノベーションセンターにて撮影
サマリー:「情報製造小売業」への変革を続けるファーストリテイリングは、RFID(無線自動認識)技術を活用した「服のデジタル化」によって顧客体験の向上とビジネス成長を加速させようとしている。その進化のゆくえに迫った。

究極の普段着“LifeWear”(ライフウェア)を追求し、顧客起点の情報を商品化する「情報製造小売業」への変革を続けるファーストリテイリング。その変革のために、RFID(無線自動認識)技術を活用して「服のデジタル化」にも取り組んできた。それに約10年にわたって伴走してきたのが、RFID分野の世界的なリーダー企業、Avery Dennison(エイブリィ デニソン)である。

RFIDをはじめさまざまなテクノロジーが持つポテンシャルをフル活用して、情報製造小売業への進化をどう加速させていくのか。IT・デジタル技術を用いた業務改革をリードするファーストリテイリングCIOの丹原崇宏氏に、Avery DennisonのBill Toney氏が聞いた。

顧客起点で始まったRFIDの導入

Toney 丹原さんがファーストリテイリング入社後に取り組まれた最初の大きなプロジェクトが、RFIDの導入だったと記憶しています。Avery Dennisonはその当時からご一緒していますが、これまでの道のりはどんなものでしたか。また、当時から現在までデジタル化に対する期待がどう変化したか、教えてください。

丹原 RFID活用の取り組みは、2014年頃に始まりました。すでにその頃には「顧客起点」という視点から、社内でいろいろなディスカッションを行っていました。たとえば、当時は「感謝祭セール」のたびに店舗に長い列ができる、あるいはほしい商品がどこにあるのか、お客様がすぐに見つけられないという問題がありました。そうしたお客様の不満をどう解消するか、よりよい顧客体験を目指すにはどうすればいいかを話し合っていました。

 そうした問題を解決する方法としてRFIDを活用するというアイデアが生まれ、Avery Dennisonの知見を得ながら、さまざまな試行錯誤を重ねてきました。実際に店舗に行って、RFIDタグやリーダー(読み取り機)の性能を現場で検証したり、海外のユーザー訪問やパートナー企業の発掘を一緒にしたこともありました。

 そうした積み重ねを経て、現在では「ユニクロ」や「ジーユー」などのすべての商品と店舗でRFIDを活用しています。当初はRFIDを導入することで在庫管理精度や顧客体験の向上、業務の効率化を目指していたのですが、現在はRFIDをもっとサプライチェーン全体に広げて、生産から物流、販売のエンド・トゥ・エンドで活用していきたいと考えるようになりました。アナログな服がRFIDによってデジタルに個体認識できる状態になったのです。こうした「服のデジタル化」によるプラットフォームを構築することで、可能性が大きく広がると思っています。

Toney 服のデジタル化が持つポテンシャルには、具体的にはどのようなものがあると期待していますか。

丹原 小売業で当社ほどRFIDを活用している企業は、世界を見渡しても他にないと自負しています。米国でも、特に(商品につけられたRFIDタグを自動で読み取る)ユニクロのセルフレジについて、「すごい」「びっくりした」という感想をよく耳にします。私たちは導入を計画した時点から、一点一点バーコードを読み取るようなセルフレジにはしない、店舗スタッフがやっている作業をお客様に押し付けるようなことはしない、と決めていました。やるのならば、お客様があっと驚くようなもの、よりよい購買体験を提供できるものにすると決めていたので、それを実現するにはRFIDが最適だったのです。

丹原崇宏
ファーストリテイリング
グループ執行役員 CIO

大手システム開発会社で開発とコンサルティングを担当。地方自治体勤務を経て、2012年ファーストリテイリング入社。2019年1月より現職。

Toney RFIDはバーコードと異なり、「1対多」の技術で、多くのデータを素早く収集することができます。ユニクロのセルフレジで、買い物した全商品を一度に認識できているように、ユニークIDを、瞬時に、大量に自動認識できることが、新しい顧客体験の基盤になったのですね。

丹原 セルフレジを導入したことで、ファーストリテイリングがデジタル先進企業だとお客様に認識してもらうことができ、「LifeWear」というコンセプトに「テクノロジー」の印象を与えることができたのも、大きな利点でした。商品の検品や棚卸し、自動倉庫でもRFIDを利用していますが、それらはお客様の目に触れることはありませんから。

 今後はサステナビリティの観点から、どのような素材を使い、どの国のどの工場で生産されたかといった情報をお客様にも開示するなど、トレーサビリティやサプライチェーンの透明性向上にもテクノロジーを組み合わせて実現していきたいと考えています。