一気通貫のシステムが、「情報」から「価値」を生む

Toney 丹原さんが率いているデジタル業務改革サービス部は、一般的なIT部門とは異なり、ITやデジタル技術を駆使した全社的な業務改革に取り組んでいますね。デジタル業務改革サービス部や丹原さんのCIOとしてのミッション、そして職務の特徴は何ですか。

Bill Toney
VP, Global RFID Market Development
Avery Dennison

小売業界におけるデジタルIDソリューションの普及を促進し、企業の新たなテクノロジーの導入や活用を支援するため、Avery DennisonのグローバルRFID市場開発チームを牽引する。

丹原 ただシステムをつくるのではなく、業務内容やプロセスを変える、新しい業務をつくるというミッションを背負っています。その意味では、ビジネスアナリティクスやコンサルティングに近い仕事でもありますが、当然いまの時代においてはデジタルの活用が欠かせないので、RFIDのようなデジタル技術をどう活かすかという課題もあります。また、新しい業務をつくって終わりではなく、結果としてそれがビジネスに実装され、具体的な成果やお客様にとっての価値を生むところまで責任を持たなければなりません。

 一言で「業務」と言っても、「情報製造小売業」という私たちのビジネスモデルにおいては、その範囲が非常に広くなります。商品そのものの企画やデザイン、生産計画、工場での生産、物流、そしてお客様が訪れる店舗やeコマースの業務までを含んでいます。普通のメーカーや小売業なら、ここまで広範囲に及ぶことはありませんが、私のチームはこれらすべての業務の現場に入り込み、かつグローバルで一つのシステムにまとめ上げなくてはなりません。

 なぜ一つのシステムなのかというと、やはりエンド・トゥ・エンドですべての情報がつながっていなくては意味がないからです。企画から、生産、物流、販売までの情報が一つにつながっているからこそ、業務が最適化され、顧客にとっての価値も生まれるのです。

 当社では、世界中どこでも従業員全員が統一された基準、最もいい方法でビジネスを実行していく「グローバルワン」を掲げていますが、それを実現するのがCIOとしてのミッションだととらえています。

Toney 壮大なミッションといえますね。

丹原 アイデアや構想を描くだけなら誰でもできるかもしれませんが、それを具現化させてファーストリテイリンググループの世界約3500店舗を運営するのは、かなり挑戦的なことです。ファーストリテイリングは実行・実践に重きを置く会社ですから、絵に描いた餅に終わらせるわけにはいきません。そこはトップからも口を酸っぱくして言われています。

 また、本当の意味で会社の業務やお客様にとっていいもの、使いやすいシステムであることが大切です。ですから私の部門の一人よがりにならないよう、いつも各部門や現場の人たちと一緒にどういう方法を取るべきかを話し合いながら進めています。

お客様の声にこそ、チャンスがある

Toney 御社の業務改革プロジェクトは非常に柔軟かつアジャイルに進められており、経営陣の意思決定と現場での実行が相互に強くリンクしている印象を受けます。プロジェクトの進め方について具体的に教えていただけますか。

丹原 先だってこんなことがありました。妊婦のお客様から、「あの店のマタニティショーツは売り場の最下段に陳列されていて、お腹が大きいと取りにくい」というご指摘があったのです。それを受けて、店舗側はその日のうちに売り場のレイアウトを変えました。その結果、そのお客様からお礼の言葉が届きました。システムや業務プロセスに限らず、お客様にとっていいと思った改革はすぐに実行する。それが当社の文化です。

 そもそも当社は、経営陣から一方的に指示が降りてくる意思決定システムではありません。お客様に最も近い現場からの声がダイレクトに上がってきて、それがすぐに解決すべきこと、お客様の不満の解消につながることであれば、一刻も早くどう実行するかという観点で意思決定がなされるのです。ビジネスや顧客体験をよりよいものにするアイデアは、お客様の声に即応する中からで生まれてくると私たちは信じています。

 新しいアイデアを実現する仕組みをつくることを使命とする私のチームにとって、これはなかなか大変です。通常なら、年間の開発計画があり、予算も組まれ、それに従って実行していくところでしょう。当社でも現状のシステムを運営するための計画や予算はありますが、お客様の声に即応するために何か新しい取り組みを始める時には、経営トップも参加する会議に諮って、その場で即決されます。ゴーサインが出れば、予算がついて、すぐに動き始めます。

 お客様にとっていいことであり、会社の成長にもつながることならば、たとえ計画にはなかったことでも、どんどん前に進めるのが当たり前というのが当社の行動原理です。ROI(投資収益性)に対してもシビアに見ていますが、お客様の声を起点に素早く実行していますので、投資回収はおのずと早くなります。組織としてのスピード感は、当社の特徴だといえると思います。