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スマートシティ、スマートモビリティ、スマートファクトリーなど、世は「スマートX」の時代である。複雑な社会課題が山積する中で、社会と事業の持続可能性を高めていくには、企業の枠や利害を超え、スマートに協調しながら「困り事」を解決するビジネスやサービスを構想、実装していく必要がある。
そこで欠かせないのが、多様なプレーヤーが参画するエコシステムの形成だが、自社の利益や都合を優先する「エゴ」システムとなっているケースが珍しくない。「エゴ」システムから、真のエコシステムへ。社会課題をスマートに解決する「座組み」のあり方について、デロイト トーマツ コンサルティングの井出潔氏と白鳥聡氏に聞いた。
VUCAの時代の課題解決に挑む「SMART X LAB」
――近年注目が高まるスマートシティ開発やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の実現においては、業界の枠や民間セクターと公的セクターの境を超えた協働的パートナーシップやエコシステムの形成が欠かせません。さらに、社会実装していくためにはデジタルをはじめとする先端テクノロジーの活用が必要不可欠となることから、デジタル人材、テクノロジー人材の登用を含めて実現へのハードルが高くなっています。
こうした諸課題を乗り越えるための支援組織として、デロイト トーマツ コンサルティングでは「SMART X LAB」(スマート・エックス・ラボ)を立ち上げられたそうですが、具体的にはどのような組織なのでしょうか。
井出 SMART X LABは、複雑化する社会課題に取り組むため、それぞれの業界・分野の専門性の高いメンバーを集めた横断的な組織です。
デロイト トーマツ コンサルティングの組織は、自動車や金融といったインダストリー(産業)ごとのチームと、M&A(合併・買収)やヒューマンキャピタル(人的資本)といった業界をまたぐオファリングのチームから主に構成されており、クライアントの業種や課題に応じて、これらのチームが連携しながらサービスを提供しています。SMART X LABは横軸のオファリングチームの一つとして、2年前に立ち上げました。
現代はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代といわれるように、非連続的で、先が見通せないことが次々と起こる時代です。ビジネスアジェンダや社会アジェンダが複雑性を増し、一つの部署や一企業だけでは、とても解決できない状況になっています。そうした複雑性が極めて高いアジェンダに業界横断で取り組むのが、SMART X LABです。
現在は、スマートシティを中心に、スマートモビリティ、スマートファイナンス、スマートファクトリー、スマートエナジー、スマートヘルスケア、サーキュラーエコノミー(循環経済)などの社会アジェンダについて、政策提言や技術戦略の策定、プラットフォームづくり、サービスの社会実装などの支援を行っています。
――クライアント企業側から、そうした支援ニーズが高まっているということでしょうか。
井出 世の中の課題を解決するためには、業界をまたいでいろいろなプレーヤーが手を組まないと実現できない部分がどんどん広がっており、コンサルティングの現場でもそれを痛感しています。
私は自動車業界を長く担当してきましたが、かつての自動車メーカーは、高い性能や品質、ユーザビリティを備えた新車をつくることでビジネスが成り立っていました。
しかし、新車をつくって売るだけでは儲からなくなり、新しいビジネスモデルへの転換に取り組まなければ生き残りは難しくなっています。その変化を端的に言い表したキーワードが「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアードサービス、電動化)です。
私たちが『モビリティー革命2030 自動車産業の破壊と創造』を出版した2016年当時、「CASEの時代がそんなに早く来るのか」という声も聞かれましたが、いまではCASEは前提となり、さらにその先も見据えて動いています。
EV(電気自動車)を単に次世代の自動車ととらえるのではなく、たとえば「走る蓄電池」として電力の効率利用や安定供給に貢献することも視野に入れるなど、既存のビジネスの枠ではくくり切れない大きな変化が起こっています。
一部の自動車メーカーがMaaSに積極的に取り組んでいるのも、そうした新たなビジネスチャンスの獲得や社会課題解決へのチャレンジの一環です。