「エゴ」システムを、「エコ」システムに
転換するためのポイント

――さまざまなプレーヤーが参画するプロジェクトでは、各者の利害や目的をうまくオーケストレーション(統合、編成)することも重要ですね。

白鳥 エコシステムの形成においては、各プレーヤーの意図や思惑を一つにすることが非常に重要です。

 とはいえ、現実としては自社の利益追求を第一に考える企業も多く、エコシステムというよりも、自社のエゴを前面に出した「エゴ」システムが形成されてしまうケースも珍しくありません。そうした「エゴ」システムを、エコシステムに変えるためには、3つのポイントがあると考えています。

 1つ目は、各プレーヤーの目線を合わせること。目線を合わせず、単に寄り集まっただけでは、複雑な課題解決も需要の喚起もできません。目線を合わせるのに有効なのが、「ズームアウト」して遠くを見ること、具体的には「10年後にどんな社会を実現したいのか」という長期ビジョンや共通の目的を描き、それをプレーヤー間で共有することです。

白鳥 聡
Satoshi Shiratori

デロイト トーマツ コンサルティング
執行役員

 MaaSに限らず、エコシステムを形成する共通の目的は、サービスの最終受益者が抱えている「困り事」を解決することです。自社の利益だけを追求する前に、この共通の目的に意識を合わせる必要があります。

 2つ目は、長期の目的を共有したうえで、「ズームイン」して目の前の半年、1年でやるべきことは何かを考え、試行と学習を繰り返すことです。「我々がつくろうとしているサービスは、利用者が本当に求めているものなのか」「このサービスを提供すれば、対価を払ってもらえるのか」と自問自答し、試行と学習を繰り返しながら改善を重ねていくことで、共通の目的に沿ったサービスをつくり上げるのです。

 そして3つ目が、「エコ」が「エゴ」にならないようにするためのプレーヤー間の調整です。エコシステムは、各パートナーのギブ・アンド・テイクによって成り立つものであるということを互いに理解し、協業し合える関係づくりが求められます。

 そうした関係をつくるために、パートナー同士で合弁会社を設立したり、コンソーシアムを結成したり、最適な「座組み」を考える必要もあります。サービスの開発段階、実装段階、スケール(拡大)する段階と、それぞれで座組みを変えるという選択肢もあります。

――社会課題の解決プロジェクトは各地域で行われていますが、日本全体での社会的価値の向上を考えた場合、各プロジェクトで蓄積されたナレッジを統合し、それを横展開していくことで、課題解決力の全体的な底上げを図っていく必要があると思います。ナレッジ統合のハブとなる中立的なプレーヤーとして、デロイト トーマツ コンサルティングが果たすべき役割は大きいのではないでしょうか。

白鳥 まさにその役割を果たすのが、我々です。新規事業の構想と立ち上げ、さまざまなパートナーシップの座組みによる事業の拡大は、我々の中核的なケイパビリティ(組織能力)の一つですし、それに加え、数多くの自治体を支援してきた実績もあります。

 長期的な支援の枠組みとして、当社が「ビジネスプロデュース」と呼ぶ、実行者として包括的な新事業創造をともに担うサービスも提供しています。これは、新規事業やエコシステムの立ち上げ段階では当社が運営の大部分を引き受け、クライアント企業やエコシステムのパートナーに我々のナレッジを移植しながら、事業・サービスが長期的に自走できるようにしたうえで、運営を移管するというものです。

井出 SMART X LABには各業界に精通した人材が揃っていますので、エコシステムに参画する各プレーヤーの強みや核心的な利害を深く理解したうえで、長期ビジョンの共有やプレーヤー間の調整を図ることができます。

 加えて、デジタル人材、テクノロジー人材が多数いますので、サービスの実装まで考えたうえで、合意形成を進めることもできます。

 今後は、「困り事」の当事者である住民の立場や生活実態に対する知見をいっそう深め、住民目線で提言やサービス設計ができる能力をいちだんと磨いていきたいと考えています。