サマリー:社会課題先進国といわれる日本において、特に地方部はその先頭を走っている。デジタルを基軸とする企業間連携、官民連携による解決モデルをモニター デロイトの2人が提示する。

先進国のなかでいち早く少子高齢化が進み、“課題先進国”といわれる我が国において、地方部が抱える社会課題は特に深刻だ。地方創生は従来から政策的推進が図られてきたが、政府が掲げる「デジタル田園都市国家構想」によってあらためて注目を集めている。

デジタルの力を活かしつつ、自治体と民間企業、あるいは自治体同士、民間同士がつながり、その深い課題をどう解決していけばいいのか。互いの強みやリソースを有機的に組み合わせた地域発の変革のあり方について、モニター デロイトの高柳良和氏と中村司氏に聞いた。

コロナ禍が変えた地方創生のトレンド

――地域が抱える課題と地方創生のトレンドにについて、どのように見ていますか。

高柳 人口動態の変化は“半ば不可避な未来”と言えます。地方で人口が減少し、人口密度の低い地域が増えることで、公共サービス、民間サービスの需要者が減ると同時に、その担い手も減ります。その両面からサービスが成り立たなくなる可能性があります。

 こうした課題に対して、自治体は地域の持続可能性をいかに維持するかという観点から民間企業が持つテクノロジーやノウハウを導入し、公共サービスのオペレーションを変革することに強い関心を寄せています。一方、民間企業は、地方を未開拓市場ととらえたときに、大都市部とは異なる市場環境の中で、どのようなサービスのあり方や稼ぎ方を中長期的に構築しうるのかを模索しています。

 地方創生のトレンドについては、かつては地方に仕事をつくり、東京に一極集中していた人を呼び戻そうという発想でした。そのために、企業や工場などの誘致を盛んに行ってきましたが、企業側のオペレーション効率や全体最適の観点からすると、やや難しい側面があったのも事実だと思います。

 そうしたなか、最近はコロナ禍もあいまって、従業員が働く場所に制約を設けない企業が少しずつ増えてきましたので、企業のオフィスや生産拠点ではなく人そのものを誘致しようという発想に変わってきています。一定の利便性を担保した公共サービス、民間サービスを地方でも受けられるようになれば、移住に対するハードルが下がります。そうした環境をいかに整備するかを考える自治体が増えています。

――地方創生の最近の事例として注目すべきものはありますか。

高柳 地域課題の解決に向けた民間参入、デジタルをはじめとするテクノロジー活用の事例として、地域の観光産業に対する物流機能を維持するためのドローン活用が挙げられます。たとえば、長野県白馬村の山岳エリアでドローン配送の実用化に向けた実証実験が行われています。

 少子高齢化で山小屋に物資を運ぶ「歩荷」(ぼっか)さんも減っていて、このままでは山岳物流の担い手がいなくなってしまいます。山小屋の機能が下がれば、山の集客力が落ち込み、山のふもとにある宿泊施設や温泉施設、飲食店、小売店など地域経済全体が停滞してしまう恐れがあります。

 そこで、山岳観光を振興する自治体、山小屋の経営者をはじめとする地域の企業、ドローンテクノロジーを有する域外の民間企業が課題解決の下に連携し、山岳物流へのドローン活用を進めているのです。

 ほかにも神奈川県横須賀市では、自動配送ロボット(UGV)によるスーパーからの商品宅配サービスの実証実験が行われていますし、大分市では観光地をはじめとした広域移動手段として、空飛ぶクルマの社会実装に向けた取り組みを本格化しています。

――そうした事例では、社会実装に向けてどのような課題が見えてきたのでしょうか。

高柳 たとえば、それらを日常的な輸送手段として位置付けた場合に、どれだけの頻度で、どれだけのものを運ぶのかといった輸送頻度や、トータルで見たビジネスの採算性を含めたビジネスモデルについて、もう一段詰めて検討していく必要があると思います。

 今後の浸透・拡大に向けては、どのようなプレーヤーを巻き込んで、ビジネスエコシステムをつくっていくかも大きな課題です。いまは、大都市部の企業が実証プロジェクトを主導している形ですが、地場企業がドローンやUGVなどを使ったサービスを実際にオペレーションし、収益を上げられるモデルを構築していかないと、地域と融和し、地域に根差したサービスにはなりません。具体的なフォーメーションづくりが、今後の検討課題となるでしょう。