――地方創生のフォーメーションづくりについては、どんな点に留意する必要がありますか。
中村 民間のクライアントが地方創生領域への参入を目指し、市街地活性化や観光振興などを目的とした新事業を検討するという案件にて、我々は複数ご支援してきております。そのなかでよく議論となるのが、当該企業がなぜまちづくりや地方創生領域で新事業をやる必要があるのか(戦略合理性があるのか)という論点や、実際にどのように進めていけば社会実装につながるのか(事業としての蓋然性・持続性を高められるのか)という論点です。
1点目について、地方創生に関連するプロジェクトは、ややもすると社会貢献活動やエミネンス活動の一環としてとらえられがちですが、民間企業としてはビジネスとしての勝機を見出す必要があるために、採算性を含めた事業進出の妥当性や合理性について冷静に見定めるとともに、自社としてのミッション、ビジョンと整合した熱い想いがない限り、社内外のステークホルダーからの合意、納得を得るのに苦労するという場面は数多く見られます。
また2点目について、実際に社会実装に向けた取り組みを進めていくにあたっても、当該企業の既存のケーパビリティ(組織能力)だけではできないことが多く、「誰と組むのか」というところから検討を始めて、どのような座組みでやるのか、(「採算性」と「想い」の双方から)その企業をどのように巻き込むのかというところまでをしっかり設計していかないと、社内、社外双方の理解を得ることは容易ではありません。
地域おこしに足りないケーパビリティをどう調達するか
――地域おこしには「よそ者、若者、ばか者」が必要とよくいわれますが、地方の人たちが異分野、異業種、異文化の人たちを巻き込んでいくのは容易ではありません。どうすれば多様なメンバーを集められますか。
中村 自分たちの街をどんな街にしていきたいのか、そのためにどのような課題に取り組む必要があり、課題を解決するために足りないケーパビリティは何なのか。まずは、そうした点を明確にし、関係者間で目線を合わせていく必要があります。
過去に我々がご支援した一事例として、当地の主要産業が観光であるものの、観光における来訪者数・消費額双方の落ち込み、低迷に悩む地方都市群の課題解決に向けて、事業参入を試みたクライアントのケースがあります。そこでは、コロナ後の事業環境の変化や消費者動向の変化を鑑み、将来の観光がどのような形となるのかを議論のうえ、当該群のような観光都市としてのあるべき姿や生き残り策がどうなるのか、ということを討議しました。そのうえで、観光客が旅行に来た際にどこからどこに移動したのか、どういった場所でどんな体験をし、何にお金を使ったのかといったトランザクションデータを収集・分析し、それらを観光都市としての(投資を含む)再開発に活かすことを考えました。
当該クライアントには、観光に関わる消費者・事業者データを分析・活用するケーパビリティに不足感を感じていたため、当該領域に長けたスタートアップ企業の見極めや、巻き込み、口説き落としを図りました。また、消費者・事業者データを取り込むためのタッチポイントとなる、各種観光事業者や小売事業者などの地場の各企業に対しては、事業上の提携を用いて巻き込みを図りました。
――地方と大都市、既存企業とスタートアップなどをつなぎ合わせて課題解決に向けたフォーメーションを組むために、コーディネーター役が必要ということですね。
中村 デロイト トーマツ グループの場合であれば、自治体や地場の民間企業から街としての将来構想や取り組むべき課題設定などについて、高柳のチームにまず相談があります。
構想を実行するに当たって地場のプレーヤーだけでは難しいとなったとき、私が所属するM&A(合併・買収から企業間提携までを含む)チームも加わり、“欠けているピース”がどんなもので、それを補うためにどの事業者とどのように組めばお互いにメリットがあるのかを検討していきます。必要であれば、その事業者のデューデリジェンス(精査)や座組み・スキームの設計なども我々が行います。

Yoshikazu Takayanagi
モニター デロイト
執行役員 マネージングディレクター
高柳 私のチームは、地域の中長期的な街の未来像を描くところから始め、その実現に貢献するビジネスエコシステムにおける民間企業のエントリーポイントを探していきます。
ビジネスモデルを考えていったときに、関係者間の連結点が見えてきます。必要なケーパビリティを持つ企業がどこなのか、あるいは“ミッシングピース”を埋める事業者はどこなのかを明確にし、連携の仕方を検討したうえでエコシステムを具体化していきます。
収益性を高めつつ、地域からも必要とされる形でビジスモデルを構築していくには、事業基盤を地域に有している地場企業を交えて、外部企業・地場企業の双方がお互いの得意技を持ち寄り、連携していくことが重要です。
――既存事業とのカニバリゼーションや社内でのハレーションがあり、スムーズにいかないケースもありそうですが、それをどう乗り越えていけばいいですか。
中村 おっしゃる通り、このような地域課題解決の領域に参入するにあたり、自社の既存事業への影響が避けられないというケースは数多く存在します。ただ、自社でやらなければ、競合企業や新規参入者にやられてしまうリスクがあるかどうかを考えてみる必要があります。10~15年先の社会環境や競争環境を分析したときに、他社の参入によって自社の事業が悪影響を受けるということになれば、自社でやったほうがいいでしょう。
地場の既存企業や自社の既存事業と直接競合するような形で参入することが難しい場合は、別法人を立ち上げることで既存のしがらみを避けた形で事業を始める方法もあります。
たとえば、デジタル化することによって既存のサービスの利用者が減少することが予想されるようなケースでは、デジタルサービス専門の別会社で事業化を進め、そこで成果が上がったら既存事業にフィードバックしていく、あるいは既存事業自体のビジネスモデルをデジタル変革するといったアプローチが考えられます。