国の繁栄は、伝承されるものではなく、創造されるものである。国に備わった資源、労働力の豊かさ、金利または通貨価値といった、古典派経済学者の主張するものから、国の繁栄は生まれてくるのではない。

 国の競争力は、その国の産業がどれくらい技術革新によって向上できるかで決まる。会社は、世界最高の競争会社と競うプレッシャーとそれに負けまいとするチャレンジ行動によって、競争優位を確保するのである。国内に強力なライバルがあり、攻撃的な資材供給業者と、やたらと要求する顧客がいるから、競争力が強くなる。

 グローバル競争が激しくなる世界において、国の重要性は増すことはあっても減りはしない。競争の土台がますます知識の創造と同化吸収に移行するために、国の役割が大きくなっている。国の特異性が重視されるものだから、競争優位は創造され維持される。国による価値観、文化、経済構造、制度、歴史の違いこそが、競争の成功を助ける。国によって競争パターンは著しく違う。すべての産業あるいは大部分の産業で競争力を行使できる国などどこにもない。つまり、国は特定の産業で成功するのであって、その理由は、国の環境がその特定産業で最も先見力が鋭く、変革が早く、新しい課題に挑戦する能力があるためである。