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1980年代のグローバルな競争で戦いに勝ち残ったのは、既存の、明確に定義された市場においてコストと品質の優位を達成した企業であった。1990年代のグローバルな競争に勝ち残るのは、まったく新しい市場を構築し、これを制覇できる企業であろう。音声で動く家電製品、人工骨、マイクロロボット、自分で駐車する乗用車、こういった製品は無意識の願望を具体的に実現させるにとどまらず、新しい、まったく競争者のいない競争空間(competitive space)を創造することになる。コスト、品質、及びサイクルタイムなどの面で後れをとっている企業も、今後10年間には日本企業を中心とする競合企業との格差を改善する方向に向かうだろう。しかし新しい競争空間を切り開く能力がなければ、多くの企業は自社が既存の衰退しつつある製品市場に閉じ込められていることに気づくことになるだろう。
筆者たちのいうコア競争力に早期かつ一貫して投資するのは、新市場創造のための先行投資のひとつである[原注1]。そしてこうした新市場の扉を開く鍵となるのが、企業イマジネーション(corporate imagination)と探索型マーケティング(expeditionary marketing)である。コア競争力に対する投資が過少であったり、企業連合や外注政策によって不用意にこれを放棄する企業は、自社の未来を自ら摘み取っていることになる。だがコア競争力によって生み出される潜在力も、企業が実際にこれを具体化するためには、いまだ存在しない市場を予見するイマジネーションと、競争に先んじて市場を切り開く能力が同時に要求されるのである。
企業は、自社の既存事業の境界のはるかに先に広がる事業機会の地平線(opportunity horizon)を認識していてはじめて、新しい競争空間の創造のために全力を挙げることができる。この地平線は、広い意味では、経営陣が今後10年にわたって開拓したいと考えている市場領域であって、事業計画のような形での正確な把握が期待できない分野を描き出す。高品位テレビ(HDTV)の開発で日本企業数社が示した初期の情熱はまさにこの種のビジョンから生まれ出たものである。HDTVが完成した場合に出現すると思われる多くの新しい事業機会を、慎重かつ創造的に分析検討した結果、彼らは伝統的なカラーテレビ事業の境界を越えて、映画制作、ビデオ・フォトグラフィー(ハイビジョン映像の印刷への応用)、ビデオマガジン、エレクトリック・ミュージアム(electric museum、ハイビジョン映像による美術品等の展示)、製品デモンストレーション、あるいはシミュレーション訓練など様々な潜在市場を特定するに至った。