激化する世界レベルでの競争と絶え間ない変化の中で、多くの企業はビジョンや戦略の構築に熱心であったが、その割には結果が伴っていないようである。実行力強化のために奮闘する中で、トップ・マネジメントは自ら構築しようと標榜する組織を表現する用語に、「信頼感」「チームワーク」「組織間の壁のない協力」といった言葉をよく使ってきたようである。

 最近、それら企業革新を表す用語の中に、「ネットワーク」という新しい言葉が加わった。しかしながら、「ネットワークとは何か」「どのように機能するのか」といった議論は、いまだ混乱が続くばかりである。ある企業にとってネットワークとは、企業提携やジョイント・ベンチャーによる企業網などの一連の他社との関係を意味する。またある場合には、ネットワークとはマネジャーの非公式な社内の連携(機能を超え官僚主義の中でうまく立ち回る流動的なグループ)を指すこともある。しかし多くの企業においては、情報システムやテレビ会議システムなどの道具を使って、役員が情報を共有化する新しいやり方というようにとらえられているようである。

 筆者は4年間にわたって、北アメリカとヨーロッパの10社の企業がネットワークを形成するのに実際に参加し、調査してきた(囲み「調査に関して」参照)。これらの企業は、「なぜ自分たちがネットワークを構築するのか」「ネットワークとは何か」「どのように機能するのか」といったことに関しては明確な考えを持っていた。これらの企業にとってネットワークは、1990年代の競合優位の中核、つまり不透明な環境の中での優れた実行力を構築するためであった。伝統的な組織機構では、どんなに権限委譲が進み非階層化された組織であったとしても、現在成功するために必要とされるスピードや柔軟性、問題発見力を身につけることはできないのである。組織改革やダウンサイジング(往々にして社内を混乱させ社員の精神的エネルギーを浪費させるだけで継続的な効果は少ない)に比べ、ネットワークは速く効果的で柔軟性に富んでいる。