家族主義的経営と同族企業が依然として盛行しているブラジルにおいて、私はある製造企業の社長を務めているが、この会社では800人の従業員を責任ある大人として扱っている。工場労働者も含めて彼らの大部分は勤務時間を自分で決めている。会社の帳簿はだれでも見ることができる。会社の多数の重要な決定を決める投票には大多数が参加する。職務内容にかかわらず全員が月給制で給料を受け、150人以上の管理者も給与とボーナスを自分で決める。
企業の運営のやり方としては、これは型破りに見えるかもしれないが、これがうまくいっているようなのである。1980年当時は財政的破綻に瀕していたセムコ(Semco)だが、今ではブラジルでも最も急成長の企業の一つに数えられ、1988年の利益率は売上高3700万ドルに対して10%に達している。わが社の5つの工場では、舶用ポンプ、デジタル・スキャナー、業務用皿洗い機、トラック用フィルター、さらには風船ガムからロケット燃料まで何にでも使える攪拌機に至るまで、幅広い高度の製品を生産している。顧客には、アルコア、サーブ、ゼネラル・モーターズなどが名を連ねている。またナビスコやネッスルのために多数のクッキー工場を建設した。国際市場での競合企業としては、AMF、ウォーシントン・インダストリーズ、三菱重工業、キャリアが挙げられる。
経営者団体、労働組合、あるいはマスコミは、わが社をブラジルで最も働きがいのあるベスト企業の一つとして一度ならず取り上げている。事実我々は、もはや求人広告をしていない。一声かければどんなポストにでも300人に及ぶ応募が来る。最上位の5人の幹部(わが社ではカウンセラーと呼んでいる)の中には、フォード・ブラジルの前人的資源担当役員、15年間クライスラーの幹部を務めたベテラン、あるいはもっと大きな企業の社長の職をなげうってセムコに来た人がいる。