つい最近まで、アメリカで最も強い影響力を持つ経済評論家たちは、アメリカの繁栄にとって最大の脅威は他の先進国からの競争である、と警告していた。例えば、レスター・サローが1992年に書いたベストセラー『大接戦:日米欧どこが勝つか』のサブタイトルを見ればよくわかる。しかし、無敵の強さでアメリカの経済を脅かしているとされた相手も、昨年あたりから力が弱まってきたようである。日本とドイツの経済は、手に負えないほどの不況に見舞われ、両国の輸出は高すぎる通貨のために振るわず、ご自慢の労働市場システムは経済不況の影響を受けてほころびを見せているからである。対照的に、アメリカの経済は輝くばかりの繁栄ぶりとはとうてい言い難いものの、健全な姿を見せはじめている。

 しかし、多くの経済評論家や企業のエグゼクティブは、さんざんに喧伝された日米経済戦争への関心を弱めてきた一方で、新たな戦いの始まりを予想している。すなわち、先進国の経済と台頭してきた第三世界の経済との戦いである。ここ20年間、先進諸国の業績が失望を招いてきたのとは際立った対照を見せて、発展途上国は次々にめざましい成功を遂げてきた。1960年代にアジアの数カ国でまず始まった急速な経済成長は、いまや東アジアの広い地域に広まっている。マレーシアやタイといった比較的豊かな東南アジア諸国だけでなく、膨大な人口を抱える貧しい2つの国、インドネシアや中国にまでも及んでいるのである。同じような急速な成長の兆しはチリやメキシコ北部にも見られる。インドにも、バンガロールのソウトウエア団地のような、急速な開発センターが登場してきている。

 グローバルな眺望のこうした変化を、だれもが歓迎し、以前は多くが貧困にあえいでいた何億というこれらの人びとの生活水準の急速な改善を進歩と見なし、しかも前例のないビジネスのチャンスと見ると、大方の人が予想していたかもしれない。だが、西側の影響力を持つ人たちの多くは、グローバルな経済発展に満足するというよりも、第三世界の経済成長を脅威と見なすようになってきた。