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いま世界中の多くの企業が、自分たちには第三世界の貧困、自然環境の破壊、際限のない貿易摩擦といったグローバルな問題に応えるべき道徳的な義務がある、と思っている。しかし、企業の存続がまさにこうした対応にかかっていることを認識している企業はほとんどない。
グローバル企業は、高学歴の労働者、購買力のある消費者、健全な自然環境、そして国家や民族の枠を越えた平和的な共存に依存にしている。こうした現実は、私にとって大きな希望の源だ。この歴史上の転換期に、世界的な平和と繁栄の増進に貢献することが、世界で最も有力な企業のためでもあるからだ。要するに、地球に未来がなければ、グローバル企業に未来はないのである。
しかし、グローバル企業が平和と繁栄の増進を図りつつ利益を確保する、という義務をどうすれば果たせるのか、多くの人が疑問を抱いている。その答えは、私の経験からすると「共生」、すなわち個人と組織がコモングッド(共通の利益)のために共に生き、働くという「協力の精神」にある。共生を実践している企業は顧客、サプライヤー、競争企業、政府、さらには自然環境との間に協調的な関係を築いている。企業グループが共生を実践するならば、社会、政治、経済を改革する強力な力となりえるのだ。キヤノンでは1987年の創立50周年以来、「共生」をビジネスの信条の中心に据えてきた。この10年間、これが第1の理念となっている。
私が「共生」という理念の必要性に気づいたのは、キヤノンが世界規模での事業展開に乗り出したときであった。海外で工場を建設し、労働者を雇い、財務管理をするうちに、ビジネス上の新たな問題に直面するようになった。これらは厳しい競争への対応、サプライヤーの管理、為替リスクへの対処といった単なる戦術的なビジネス課題にとどまらない。特に3つの、グローバルなインバランス(不均衡)が我々を悩ませ続けてきた。この問題には企業のリーダーとして、また世界の市民として我々が一致団結して取り組まなければならない。
第1に、貿易赤字を抱えた国と貿易黒字を抱えた国とのインバランスである。これはダンピング防止法や関税の引き上げ、貿易摩擦をめぐる終わりなき論争など、不健全なビジネス環境を生み出すことになる。
第2に、富める国と貧しい国との所得の大きなインバランスである。ここから広範囲の貧困、大量の経済難民や政治難民、不法移民、民族紛争や内乱など数多くの問題が生じる。