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財務諸表の真の目的は何かということについては、いろいろ見解が分かれるであろうが、企業にどういう経済事象が生じ、いまどういう経済状態になっているかをできるだけ写実的に報告する(つまり、“ありのままを示す”)べきだということについては異論はないであろう。歴史的原価を支持する人びとと取替(とりかえ)原価の提唱者との間の最近の論争は、要するに、(財務諸表で報告すべき)経済の実体は何かということについて、意見の食い違いがあるためであると思う。
企業で実際に起こっていること――財務諸表はそれを報告するわけだが――は何だろうか。ある企業は成長ないし繁栄し、ある企業は不振だったり、つぶれたりする。そういう繁栄や不振の原因は複合的なものであるが、現実の財務諸表は、そういう複合的な要因の反映である。
会計の問題に議論を絞るためには、それ以外の要因による影響をとり除く必要がある。それには定常状態(steady state)の会社、つまり成長も縮小もせず、生産量と販売量がずっと一定に保たれる会社を想定してみればよい。
そのうえで代替的な2つの会計方式のどちらが、その定常状態を正確に示すかを比較検討することによって、両者の適否をテスト(検定)することができる。定常状態の会社の本質的な特徴は、その収益が、資本コストを含む費用の合計とちょうど等しくなるということである。もしも収益が総費用よりも大きければ企業は成長するし、総費用よりも小さければ縮小していくはずである。だから、ある会計方式をとったときに、定常状態の企業が、損益計算書の上で、成長または縮小していくかのように示されるとしたら、その会計方式は写実的(realistic)なものでないことが分かる。
私はまず、価格が安定している社会で運営される定常状態の会社を想定し、その会社に起こったことをできるだけ正確に報告するような会計のやり方を示すことにしよう。その安定価格のモデルをベースにして、次にインフレーションの社会で運営される会社について、代替的な2つの会計方式(歴史的原価による方式と、取替原価による方式)の比較検討をする。このような検討をしたあとで、実際に生じたことを、よりよく報告するのはどちらの方式かを調べることにする。そして最後に、一方の方式が他のそれよりも、より写実的だということを示唆するような若干の証拠を示すことにしよう。
安定価格下のモデル
A社は、インフレーションのない社会で運営されている。モデルをできるだけ簡単にするために、A社はただ1つの資産をもっていると仮定しよう。その資産は、第1年目の期首に1200ドルで購入され、耐用年数は3年である。購入に必要な資金の半分は借入金で、あとの半分は資本主の出資でまかなわれる。600ドルの借入資本は、期間3年の社債で、毎年4%の利子(50%の所得税を仮定すると税引後の利子率は2%)が支払われる。自己資本600ドルは、10%の収益率を期待する株主からきょ出される。