人間社会は、社会的交流の面で4つの際立った革命を経験してきた。すなわち、言語、文字、印刷、そして電気通信である。それぞれの革命は、独特の、技術をベースにした生活方法と結びついている。

 言語は狩猟をしたり集団を招集したりするうえで重要な役割を果たしたのであり、人間が共通の目標を目ざして行動することができるようにする信号でもあった。文字は農業社会における最初の都市的な生活にとって基盤となるものであった。つまり、記録をとったり知識や技能を記号の形で伝達するうえでの基礎となるものであった。印刷は工業化社会を結び合わせるものであった。つまり、識字率の向上の基礎であり、大衆教育を支えるものであった。電気通信(ギリシャ語ではTelecommunicationのteleは“距離を隔てて”という意味である)、すなわち海底電信、無線電信、電話、テレビ、そして現在のさらに新しい技術とのきずなは、“情報化社会”の基礎である。

 人間社会は、その構成員の活動を目的に沿って調整できるからこそ存在しているのである(もし財を大量生産するための人間、原材料、市場を調整することを目的とした社会的な発明でないとすれば、会社とはいったい何であろうか)。人間社会が繁栄するのは、平和な取引によって、個人の要求に従い商品やサービスが交換されうる場合である。

 このようなことすべてにとって最も重要なのが情報である。情報とは、出来事についてのニュースから市場における価格の指図までのすべてを含んでいる。企業の成功の一端は、正確な情報をじん速に伝達することにかかっているのである。

 ロスチャイルド家に富をもたらす基礎となったのは、ウォーターローにおけるナポレオンの敗戦を伝書バトによっていち早く知ることができ、それによってロスチャイルドー族が株式市場においてよりじん速な決定を下すことができたからである(今日、企業情報の伝達がじん速だからこそ、株価のランダム・ウォーク理論[訳注1]が存在するのである。なぜなら、このような情報のじん速さのゆえに、部内情報の時間的な有利さが極小化してしまうからである)。

 経済学における一般均衡理論は“完全な情報”を前提としている。すなわち、買手と売手は種々の財やサービスについて入手しうる価格の幅を知っており、また市場では相対的な価格とそれに見合った効用がはっきりしているということである。かつては地元の市場を歩き回ればできたことが、今や顧客に“リアルタイム”で関連情報を速報するような、複雑なニュースの伝送によらなければ不可能なのである。

 貿易収支からマネー・サプライ、出生率、地域間変動、購買性向や習慣の変化などに関する情報に関心をもつ事業人は、他の人々より情報のタイプや性格の変化が重要であることを容易に認識するはずである。したがって、企業は事業活動を進めるうえで予想されるさまざまな可能性や恐れと同じようにコミュニケーションの分野で生じている強力な技術革命の本質と範囲について理解をもつに違いないのである。